日本に視線を向けたフランス映画
今回は日本に関係のある作品2本をご紹介したい。1つ目は、今年のカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門のオープニングを飾った後、劇場公開された『ONODA 一万夜を越えて』(10月8日から日本でも公開)。太平洋戦争末期にフィリピン・ルバング島に派遣され、終戦を知らされることなく、戦後も30年間ジャングルに籠り続けた小野田寛郎の実話を元にした作品だ。監督は、『汚れたダイヤモンド』のアルチュール・アラリ。5か国合作ながら主要制作国はフランスである。小野田役を遠藤雄弥(青年期)と津田寛治(成人期)がリレーで演じ、その他イッセー尾形、嶋田久作、仲野太賀らが名を連ねる。
もちろん史実に沿ってはいるが、本作は戦争の悲惨さを描く政治的な作品というよりは、監督の思い入れが反映された、孤立した人間の深層心理に迫る人間ドラマとしての面が強い。とくに父親との確執があった小野田が秘密裏の任務を任され、誇りに満ちて島を訪れたところで、すでに疲弊し大義などどうでもよくなっている現地の兵士たちを見て苛立つ場面や、やがて仲間をひとりずつ失い、生きることだけが目的になっていく過程には、痛切なものがある。だがそれでも終戦を信じられず残り続けた姿をどう感じるかは、観客次第だ。2時間43分は、前半多少スローな印象もあるが、後半には緊張感が増し、クライマックスの小野田の姿には胸を締め付けられずにはいられない。
もう1本は、1964年の東京オリンピックで金メダルに輝き、「東洋の魔女」と呼ばれた、大日本紡績貝塚工場の女子バレーボールチームを描いたドキュメンタリー、Les Sorcières de l’Orient(「東洋の魔女」)だ。フランスの国立スポーツ体育研究所(INSEP)に勤めるジュリアン・ファロ監督が、同研究所の所蔵するアーカイブや、ロシアにある1962年モスクワ選手権の映像などを使用しつつ、現在も存命の元選手への取材を交えて制作した。
映画のポスターには、あのヒロインの姿も!
1978年生まれのファロ監督は当時を知らない世代ながら、世界を揺るがす彼女たちの活躍が、戦後の経済成長と相まって日本人の心を発奮させた様子を巧みに掬い取る。日中は工員としてふつうに働きながら、寝る時間も削って特訓に耐えた選手たちの驚くべき姿は、今観るとなおさら深い感銘を受ける。
◇初出=『ふらんす』2021年10月号