初監督作の充実が目立ったセザール賞
今年のセザール賞授賞式は、なかなか娯楽性に富んだ内容だった。いつもなら司会者やゲストのギャグが外し気味であるが、今年の司会は芸達者な俳優カド・メラッド。幕開けにいきなりフレディ・マーキュリーの扮装で登場し、クイーンの替え歌で「セザール、セザール」と熱唱して、会場はのっけから笑いとリラックスした雰囲気に包まれた。
今回の候補作を通して昨年のフランス映画を振り返るなら、ジャック・オディアールの西部劇Les Frères Sisters、エマニュエル・フィンケルの『あなたはまだ帰ってこない』、グザヴィエ・ルグランの『ジュリアン』、ピエール・サルヴァドーリのコメディEn Liberté !、ジル・ルルーシュの男性版シンクロナイズド・スイミングものLe Grand Bain、時代遅れの歌手を描いた、アレックス・ラッツ監督、主演のGuy、養子をテーマにしたジャンヌ・エリーのPupille、ディドロによる18世紀の恋愛心理劇をエマニュエル・ムレが映画化したMademoiselle de Joncquières あたりに代表される。最終的に、受賞はオディアールとルグランがそれぞれ4冠で分け合った。前者は監督賞、撮影賞、舞台美術賞、音響賞。後者は作品賞、主演女優賞(レア・ドリュッケール)、オリジナル脚本賞、編集賞だ。
外国映画賞は、カンヌ組のCold War、Capharnaüm、Girl といった強豪を尻目にみごと『万引き家族』が受賞。だがロサンゼルスにいた是枝監督はもとより、フランスの配給会社の代表も不在で、誰もトロフィを受け取ることができなかったのは残念だった。
今回の発見はむしろ初監督作品の充実にあった。『ジュリアン』に加え、マルセイユのストリートキッズたちを鮮烈に描き3冠(初監督作品/ジャン=ベルナール・マルラン、若手有望新人男優/ディラン・ロベール、若手有望新人女優/ケンザ・フォルタ)に輝いたShéhérazadeと、ペドフィル問題を演劇的手法とリアリスティックな描写を融合させながら取り上げたLes Chatouilles は評価が高い。
スピーチで注目を集めたのは、Le Grand Bain で助演男優賞をさらった歌手のフィリップ・カトリーヌ。いつもながらにとぼけた調子で共演者に感謝を述べたあと、自分の役柄のモデルとなった人物の名前を呼びながら歌を口ずさみ、会場を沸かした。一方、離婚家庭の争いを描いた『ジュリアン』で主演女優賞に輝いたドリュッケールは、現実にDVに苦しんでいる女性たちや、日々辛い状況のなかで闘い続けている女性たちへオマージュを捧げた。#MeToo ムーブメントの流れを受けた昨年に続き、今年も女性の権利を訴えたフィナーレとなった。
◇初出=『ふらんす』2019年4月号