カンヌのフランス映画に見る新しい波
第72回カンヌ国際映画祭が5月25日に閉幕し、韓国のポン・ジュノ監督のParasite(「パラサイト」)が、最高賞のパルムドールを獲得した。韓国映画が本賞を受賞するのは初めてだという。
パルムこそ叶わなかったが、今年のコンペティションはフランス映画が6本もあり、むしろ若手、新人の波を印象づけた。ともに初長編でコンペ入りをして話題になったラジ・リのLes Misérables(「レ・ミゼラブル」)とマティ・ディオップのAtlantique(「大西洋」)は、前者が審査員賞に輝き、後者がグランプリを受賞した。もっとも、治安の悪い郊外を舞台に若者と横柄な警察の対立を描いたラジ・リの作品は、終盤の過激な暴力描写のために評価が分かれた。一方ディオップは、リアリティのなかに幻想が混じる独特のスタイルで、アフリカの港町に生きる若者の姿を描き、目を引いた。
『レ・ミゼラブル Les Miserables』スチール
若手世代のコンペ初参加組は、セリーヌ・シアマのPortrait de la jeune fille en feu(「炎に照らされた若い女性の肖像」)と、ジャスティーヌ・トリエのSibyl(「シビル」)で、シアマが脚本賞を受賞。18世紀を舞台に、若い女流画家とそのモデルの女性との初々しい恋愛関係を繊細に描き、その演出力を評価する声も多かった。
さらにアルノー・デプレシャンがこれまでとはスタイルを変え、刑事ものを手がけたRoubaix, Une lumière(Oh Merci !)(「ルベックス、ある光(おー、ありがとう!)」)と、アブデラティフ・ケシシュの3時間半の問題作 Mektoub, My Love : Intermezzo(「メクトゥブ、愛する人:間奏曲」)も。前作の続編にあたるケシシュは、ほとんどストーリーはなく、2時間近くナイトクラブで女性たちが延々と踊り続けているのを映すほか、ポルノまがいのシーンもあるため、激しい批判を受けた。「間奏曲」にしては刺激が強すぎたようだ。
コンペティション以外の話題は、栄誉パルムドールを授与されたアラン・ドロンだ。右翼政党を支持し、ホモセクシュアルに対する差別的な発言をしたこともあるドロンの受賞にあたっては、当初アメリカの女性団体から反対の声が上がっていたが、現地ではトラブルもなくマスタークラスを開催。銀幕の自身の姿を第三者のように客観視してエピソードを語りつつも、ときに目を潤ませる彼の姿に、多くの観客が魅了された。
クロード・ルルーシュの『男と女』の現在を描いた『男と女Ⅲ 人生最良の日々(仮)』も、オリジナルを知る観客に感動を与えた。主演のジャン=ルイ・トランティニャンとアヌーク・エメの顔ぶれも変わらず、ノスタルジーだけではない、味わい深さを感じさせた。
◇初出=『ふらんす』2019年7月号