音楽業界の闘う女性を追ったドキュメンタリー
#MeToo ムーブメントをきっかけに、女性の権利やパワーに注目が集まる中、音楽業界におけるフェミニズムという視点から、フランスの女性シンガーたちを取り上げた、ユニークなドキュメンタリーHaut les filles(「娘たちよ、声高に」)が公開された。監督したのは長年リベラシオン紙に勤めていた男性ジャーナリスト、フランソワ・アルマネだ。
Haut les filles のポスター
日本でフレンチ・ポップスというと、とかくフランス・ギャルなどのイエイエ系や、セルジュ・ゲンズブール・プロデュースのジェーン・バーキンやブリジット・バルドーら、官能派のイメージが強いが、ここに登場するのは、ブリジット・フォンテーヌやフランソワーズ・アルディ、リタ・ミツコのカトリーヌ・ランジェなど、もともと自身でソングライティングも手掛ける個性派が多い。さらに最近ミュージシャンとしての活動が加速しているシャルロット・ゲンズブールとルー・ドワイヨン、ヴァネッサ・パラディ、またLGBTからの支持も多いジャンヌ・アデッドやハードコア女性バンドSavages のジェニー・ベスなど、10人の女性ミュージシャンが登場し、インタビューに答える。
その合間には、彼女たちのコンサート映像はもとより、エディット・ピアフ、バルバラから現代のクリスティーヌ&ザ・クイーンズに至る、自由で芯の強い、自立した女性ミュージシャンたちの歴史を垣間みることができる。
とくに興味深いのは、フランスの女性ロックシンガーの台頭と、五月革命以降のフェミニズム運動がシンクロしていることで、たとえば「343人のマニフェスト」(1971年/中絶の合法化を求めた請願書)に署名したフォンテーヌは、自身の中絶の体験を振り返り、署名は当然だったと言う。またアルディは、デビュー当時、自分の中性的なルックスにコンプレックスを持っていたものの、時代の変化とともに受け入れられるようになったと語る。
彼女たちがそれぞれの観点から、男性主導だった業界のなかで自分の立ち位置と声を見つけ、アーティストとしても自信を得ていく様子が伺える。女性史、音楽史、フランスの歴史と、さまざまな面から触発される作品であった。
◇初出=『ふらんす』2019年9月号