日本が舞台のフランス映画がブーム
Une part manquanteのポスター
日本文化はすでにかなり前からフランスで注目を浴びているが、いま映画界でブームなのは、日本を舞台にした作品だ。近作だけでも、カリン・ヴィアール演じる主人公が日本で3.11を体験するTokyo Shaking(2021)、ジェラール・ドパルデューと長塚京三が共演したUMAMI(旨味/2023)、日本で12月に劇場公開を迎えた『不思議の国のシドニ(原題Sidonie au Japon)』(2023)などがある。またカトリーヌ・ドヌーヴは、エリック・クー監督が死後の世界を描き日本人キャストも多数出演する『Spirit World』を日本で撮影(東京国際映画祭でジャパン・プレミアを迎えた)。フランスでは2025年の2月に公開される予定だ。
それに加えて、日本を舞台にした新たなフランス映画が公開になった。ギョーム・セネズ監督が前作『パパは奮闘中』(2018)で組んだロマン・デュリスと再タッグを組んだ、Une part manquante(欠けたパート)である。本作は、まだ婚姻状態にある日本人の妻がふたりの子供を連れ日本に帰国してしまい、それ以来子供に会わせてもらえないと訴えて、2021年に東京でハンガー・ストライキをおこしたヴァンサン・フィショの事件からインスパイアされたものだという。ハンガー・ストライキまではしないものの、妻が幼い娘と共に日本に帰って以来、9年も音信不通で娘の行方もわからない主人公ジェイが、日本でタクシー運転手をしながら娘を探す物語。その過程で、同じ境遇にあるフランス人の母親などに出会い、自分のようなケースが日本では決して少なくないことを知る(統計では、このように大人の都合で片親に会えない境遇の子供たちが、日本で毎年15万人を超えるとされている)。
ジェイにとって理不尽と思える日本の司法の壁が描かれつつ、本作は基本的には父と娘の絆を見つめる人間ドラマと言える。セネズ監督が前作でも見せたような堅実な演出とともに、デュリスの抑制された演技に引き込まれる。とくに日本語のセリフが多いなか、彼の日本語はそのイントネーションも含みあっぱれで、“日本に住む外国人感”がリアルに出ている。おそらくかなり特訓を受けたに違いない。
本作がフランス人にどう受け止められるのか、そちらの反響も楽しみだ。