2017年6月号 リヴァが最後に見せた笑顔
リヴァが最後に見せた笑顔
アラン・レネの『二十四時間の情事』や、ジョルジュ・フランジュによるThérèse Desqueyroux(テレーズ・デスケルウ)、最近ではミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』で名演技を見せたエマニュエル・リヴァが今年の1月、89歳で他界した。最後まで現役だった。
そんな彼女の遺作となった映画が公開され、注目されている。『ルンバ』、La Féeで知られるフィオナ・ゴードンとドミニク・アベル監督が昨年制作したコメディ・ミュージカル、Paris pieds nus。世界的に話題になったハリウッド映画『ラ・ラ・ランド』以来、いまやミュージカルが再び脚光を浴びているが、このふたりの監督作はとてもオリジナルだ。いわゆるアメリカのミュージカルのような踊り主体の派手さではなく、ドラマのなかにときおり踊りのシーンが混ざるといった趣。物語もオフビートなユーモアに溢れ、アキ・カウリスマキ・ミーツ・ジャック・タチとでも言えるだろうか。
カナダの雪原地帯に住んでいるフィオナは、ひとり暮らしが危うくなってきた叔母の面倒をみるために、パリにやってくる。だが、慣れない都会でさっそく荷物を盗まれ、迷子に。そうこうしているうちに叔母は家を出たきり、行方不明になってしまう。途方にくれるフィオナが出会うのは、怪しいホームレスの男、ドム。果たしてこの3人の運命は、といった物語。ドムの暮らしぶりには、リアルないまのパリが透けて見えるものの、フィオナが巡る“裸足のパリ”はそれでも美しく可笑しく、人情があり、ロマンティック。そんななか、叔母に扮したリヴァはこれまでにないようなコメディ・センスを発揮し、元恋人役のピエール・リシャールとちょっとしたステップを踏むシーンまである。リヴァの表情があまりに朗らかなだけに、これが最後となってしまったのが信じられなくもあり、残念な気持ちで一杯だ。
それぞれが“本人を演じる”疑似ドキュメンタリーの夫婦共演作として話題になったのは、ギョーム・カネ監督・脚本・主演、マリオン・コティヤール共演のRock’n Roll。40代を迎え突然中年の危機に襲われた“俳優カネ”が、周囲の忠告もよそに若作りにはまり、ボトックスとボディビルで別人のようになりながら、果てはハリウッドに行ってTVシリーズのヒーローを演じるというコメディ。皮肉を込めた笑いなのはわかるものの、いささか悪ノリが過ぎるのは否めない。とくに後半のカネのメイクは、もはや別人レベル。動員百万人は超えたものの、本来このコンビなら、もっと大ヒットを望めたであろう。やはりストーリーが荒唐無稽すぎた、ということかもしれない。
◇初出=『ふらんす』2017年6月号