亡霊の映画と毛深い女の物語
Rosalieのポスター©Gaumont
今月は、3月の横浜フランス映画祭2024でも上映されたエリーズ・ジラール監督の新作、『日本のシドニー(仮題。Sidonie au Japon)』からご紹介しよう。フランスでは4月上旬に公開され好評を得ている。
かつてベストセラーになった小説の再販を記念して、作家のシドニー(イザベル・ユペール)は日本に招聘される。夫を亡くして以来、時計の針が止まったかのような彼女の生活は、環境の変化と献身的な編集者(伊原剛志)のおかげで活気を増す。だが日本に来てからというもの、彼女は夫の幻影を見るようになるのだった。
どこか少女っぽさを残しつつ、過去のトラウマを負った複雑な心境を表現するユペールがやはり出色だ。彼女と伊原剛志のやりとりにも繊細なニュアンスがあふれ、メランコリーとユーモアがバランスよく融合する。孤独な女性が長い「喪」から解放されるまでを描いた、味わい深い作品である。
19世紀の田舎町を舞台に、生まれつき体毛の濃い娘の苦悩を描く、『ザ・ダンサー』のステファニー・ディ・ジュースト監督の新作Rosalie(ロザリー)も独創性に満ちている。
ひとり娘、ロザリー(ナディア・テレスキウィッツ)の身を案じた父親は、持参金を持たせて彼女を嫁にやるが、相手の男アベル(ブノワ・マジメル)は彼女の秘密を知らない。だがアベルに惹かれるロザリーは次第に自身の毛深さを隠すことが苦痛になり、ありのままの自分を受け入れてもらおうと、ついに夫に秘密を話す。
ディ・ジュースト監督は実在した女性から着想を得ながらも、自由に物語を創造したという。彼女が映し出すのは、他人と異なる人間を疎外する村社会の残酷さと、それとは裏腹に、愛によって恐れを克服しようとする人間の勇気だ。
まるでモナリザのようにミステリアスな視線を投げかけるテレスキウィッツの、凛とした美しさと髭面のミスマッチ感がなんとも新鮮。ときにユーモラスで、ときに悲壮なヒロインの揺れ幅を、魅力的に表現する。さらに節度を保ったカメラワークが、ともすればキッチュになりかねない題材に品格と洗練をもたらし、観る者を虜にする。