#MeTooスキャンダルが噴出したフランス映画界のドン
ジェラール・ドパルデュー主演の『UMAMI うま味』ポスター
フランスの国民的スター、ジェラール・ドパルデューに、俳優生命を脅かす#MeTooスキャンダルが持ち上がっている。彼が出演する『DISCO ディスコ』(2008)に参加した俳優エレーヌ・ダラスが、ドパルデューと踊るシーンの撮影の際、股間など体を不必要に弄られ、自分のトレーラーに来ないかと執拗に迫られたと、被害届を出したからだ。
彼が訴えられたのはこれが初めてではない。子供のときからドパルデューと家族ぐるみの付き合いをしていた女優志望の女性が、2018年に彼の自宅で性的被害に遭い、当時被害届を出していたという。
だがその時は進展がなく、2020年に再び訴え、ようやく起訴されることになった。この他にも、公的な被害届は出していないながら、#MeTooの名乗りを上げた女性が13人に達した。一方、ドパルデューは2023年10月にフィガロ紙に公開レターを掲載し、「決して女性を襲ったことなどない」と弁明。名指しはしていないものの、「キャリア的下心で自ら寝室にやってきた女優」と、訴えた女性を逆に非難している。
しかしこのタイミングで大きなスキャンダルになったのは、テレビ局「フランス2」が、ドパルデューに関する未完のドキュメンタリーの抜粋を放映したからだ。2018年、北朝鮮建国70周年を機に招かれたドパルデューの、現地の様子を収めたもので、彼がさまざまな場所を訪れる様子を写しているのだが、通訳の女性に対する卑猥な言葉を含む下品な態度がカメラに収められ、視聴者にショックを与えた。またこれまで共演したソフィー・マルソーやアヌーク・グランベールもここにきて取材に応じ、「ドパルデューの問題ある態度はいまに始まったことではなく、みんなが見て見ぬふりをしてきた」と、業界の体質をも訴えている。
映画界の「ドン」も、さすがにここ2年ほど、新作の撮影がない。ちなみに彼の最後の出演作は、フランスで2023年5月に公開されたスローニー・ソウ監督の『UMAMI うま味』。かつてのライバルを探しに日本を旅するシェフに扮し、長塚京三や小泉今日子など日本人俳優も出演しているが、やや珍品という印象を拭えない。宣伝活動もできず、話題にならないまま終わってしまった。彼を擁護する関係者もいるなか、今後司法がどんな決定を出すのか、誰もが固唾をのんで見守っている。