2017年4月号 セザール賞にみるフランス映画の才能
セザール賞にみるフランス映画の才能
毎年賞レースの時期になると、ここ1年の良作や傾向を振り返ることになる。今年のセザール賞では、イザベル・ユペールが米アカデミー賞にもノミネートされ話題になったポール・ヴァーホーベンのElle と、フランソワ・オゾンのFrantzが最多11 部門のノミネートを獲得し、もっとも評価された。続いてブリュノ・デュモンのMa Loute が9部門、ニコール・ガルシアのMal de pierres が8部門、Divines が7部門。とくにウーダ・ベンヤミナ監督の初長編であるDivines は、初監督作品賞と最優秀作品賞の2部門に同時ノミネートされ話題となった。同じく初長編であるステファニー・ディ・ジウストのLa Danseuse も、初監督作品賞とヒロイン役のSOKO、助演のメラニー・ティエリー、そして有望新人女優のカテゴリーに入ったリリー= ローズ・デップなど計5部門にノミネートされた。
こうして見ると、傾向としてカンヌ国際映画祭に選ばれた作品が賞レースでも上位を占めることが多い。上記のなかではヴェネチア国際映画祭に出品されたオゾン作品以外はすべてカンヌ組だ。どの映画祭に出品できるかは、映画の完成タイミングにも拠るので一概には言えないが、やはり世界のトップを自負するカンヌには優れた作品が集まりやすいということだろう。
締め切りの都合で残念ながらこの原稿を書いている時点でセザール賞の受賞結果を知ることはできなかったが、いくつかこれまで取り上げていなかった作品があるので、ここでご紹介したいと思う。
Ma Loute は、デュモンにしては珍しい、滑稽な時代物コメディ。殺人事件をめぐって避暑地の階級社会の様子が、皮肉たっぷりに描かれる。Mal de pierresは、ヒロイン役のマリオン・コティヤールの魅力によって牽引されるクラシックなスタイルの女性ドラマ。もっとも、激情型で自身の欲求に正直なヒロイン像はエゴイスティックゆえに、共感できるか否かは観客によって分かれるだろう。
ヴィルジニー・エフィラが最優秀女優賞にノミネートされたVictoria は、現在注目されている若手監督ジュスティーヌ・トリエがエフィラとヴァンサン・ラコステを起用したコメディだ。ドキュメンタリー部門のなかでは、昨年ロングランヒットを記録し話題を呼んだSwaggerに触れておきたい。郊外の貧しい地区の学校の生徒たちを描いた作品だが、純ドキュメンタリーというよりドキュ・フィクションのようなスタイル。それぞれの生徒たちが胸に秘めた思いや夢を語る様子を追いつつ、ときに詩的でファンタジックなシーンも織り交ぜて、監督の光る個性を感じさせる。今後注目される人材になるに違いない。
◇初出=『ふらんす』2017年4月号