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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

愛すべき、ルーザーたちへの応援歌

 かつて日本でもヒットした『フル・モンティ』というイギリス映画を覚えているだろうか。リストラで職を失った男たちが、やむにやまれずストリップショーのグループを結成して、成功するコメディだ。そのフランス版のような作品が登場した。監督は、俳優として知られるジル・ルルーシュ。これまで共同監督としてメガホンを握ったことはあったものの、単独の長編監督作は今回が初めて。とはいえドラマと笑いのバランスをとりつつ、リズミカルに物語を紡いでいく手腕はなかなかのものである。

 Le Grand Bain(「大浴場」)は、ストリップならぬシンクロナイズド・スイミングの物語。もちろん演じるのは男たちだ。ここでは人生に敗北した7人の“ ルーザー” たちが集まる。失業中の気の弱い夫、若き日の夢が捨てられない忘れられたロック・ミュージシャン、しがない中小企業の窓際サラリーマンなど。成り行きからプールに通うことになった彼らが更衣室で顔を合わせるうちに意気投合し、ひょんなきっかけでシンクロナイズド・スイミングに心酔。コンテストを目指して、厳しい女コーチの元で鍛えられていくうちに、連帯感が生まれる。それは彼らにとって、新たな仲間とともに希望を分かち合うことであり、何より人間としての尊厳を取り戻す機会でもあった。

 監督に脱毛も減量も禁止されたという俳優たちが、もじゃもじゃのボディを晒して不器用に水中ダンスを繰り広げるのは、お世辞にも美しくない。が、切羽詰まった彼らが恥を承知で一生懸命取り組む姿には、思わず笑ってしまいつつ、ほろりともさせられる。

 このダメ男たちを演じる顔ぶれがまた心憎い。気弱な男の代表格のマチュー・アマルリック、とほほな中年が似合うオフビートなコメディアン、ブノワ・ポールブールド、天然ボケのようないい味を醸し出す歌手、フィリップ・カトリーヌ、峠を過ぎた長髪のロッカー姿にせつなさがにじむジャン=ユーグ・アングラード、この手の役柄は珍しいギョーム・カネなど。彼らが背水の陣でパフォーマンスを披露するクライマックスは、思わず身を乗り出して応援したくなること必至。ドラマティックで娯楽性に富み、これまでのフランス映画にはあまりなかったタイプの作品という印象だ。


Le Grand Bain のポスター

◇初出=『ふらんす』2018年12月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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