注目のイット・ボーイによる情感あふれる作品
Ninoのポスター
秋の映画シーズンの始まりは、いま注目の“it boy”、テオドール・ペルランの新作をご紹介しよう。今年のカンヌ国際映画祭の批評家週間部門に出品されたポリーヌ・ロケス監督の長編デビュー作、Ninoに主演し、高い評価を得た。
現在28歳の彼をボーイと呼ぶのは申し訳ないが、凛とした瞳と涼しげな横顔はどこか年齢不詳の趣がある。ケベック出身で英語とフランス語を駆使する彼は、『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(2020)や『17歳の瞳に映る世界』(2020)といった米インディペンデント映画と同時にドラマシリーズでも活躍し、最近は『カール・ラガーフェルド Becoming』(2024)でラガーフェルドを翻弄した稀代のプレイボーイ、ジャック・ド・バシェールに扮し、そのミステリアスで複雑な人間性をとらえた。
Ninoは癌を宣告された若い主人公が、翌週から治療を開始するまでの、不安な週末を描く。動揺し、絶望と死への恐怖といったさまざまな感情の波に押しつぶされそうになりながら、世界から切り離されたような孤立感を抱く。気乗りのしないパーティに顔を出し、母親の元を訪れたりするものの、打ち明けることもできない。しかも狼狽えた彼はよりによって家の鍵を紛失。仕方なく、パリの街を彷徨することになる。上辺は平静を装いながら、心のなかは荒れ狂っているさまを、ペルランは表情豊かな大きな瞳でみごとに表現してみせる。
ロケス監督は彼の起用について、「彼にはさまざまな対照的要素がある。繊細さと強さ、知性と動物性。それに控えめなところと大胆なところもあります。そしてとても自然でありながら強い魅力を放っているのです。ほぼ全編、カメラは彼の行動を追い続けるので、その自然な魅力はとても重要でした」と語る。一方ペルランは、「ニノは内省的で他人に自分のことを話さない。そんな彼が生きることに真剣に向き合わざるを得なくなり、それが彼に新たな人生の意味をもたらす。とても美しい物語で、ニノを演じながら彼がとても愛おしくなりました」と、共感を寄せる。
ニノがパリをあてどなく彷徨する姿は、アニエス・ヴァルダの『5時から7時までのクレオ』(1962)にも似て、ヌーヴェルヴァーグの現代形と言えなくもない。リアルで繊細にして情感あふれる作品である。