アメリー・ノートン原作のアニメ映画が好評
Amélie et la métaphysique des tubesのポスター
夏になるとアニメーションやファミリー向け映画の公開作が多くなるフランス。とくにアニメはディズニーなどアメリカ映画が多いものの、目下興行的に大健闘を果たしているフランス産アニメがAmélie et la métaphysique des tubesだ。ベストセラー作家、アメリー・ノートンの自伝的小説『チューブな形而上学』を元にした作品で、今年6月、アニメ映画の登竜門と言われるアヌシー国際アニメーション映画祭で観客賞を受賞した。これまで他の監督の下でストーリーボードを担当してきたマイリス・バラドと、アニメーションを手掛けてきたリアヌ゠ショー・アンが初めて監督としてタッグを組んだデビュー作である。
物語は、実際に日本に生まれ、物心つくまで日本で育ち「自分は日本人だと固く信じていた」ノートンの幼少期を反映している。ベルギーの駐日大使の娘として生まれ、赤ん坊のときから腕白で自然のなかを這い回り、妖怪や雨や池の鯉や花々などあらゆるものに興味を示し、ときには海で溺れそうになったこと。そんな手のかかる彼女をいつも優しく見守ってくれた日本人の家政婦、ニシオさんのこと。彼女の存在を通してアメリーは、幼いながらに日本語や日本文化の洗礼を受けていく。もっともそこはノートンゆえ、ときに奇想天外でユーモラスにして、はっとさせるようなユニークなものがある。
映画はこうしたアメリーの冒険を、色彩豊かでポップな、印象派の絵画を彷彿させるような技巧により描き出す。自然美や日本の生活様式の描写には、宮崎駿や高畑勲からの影響を感じさせなくもない。詩的で豊かな感性に満ちた、大人も楽しめる作品である。
昨年4月に創作半ばで亡くなったローラン・カンテ監督の遺作で、盟友ロバン・カンピヨ監督が受け継いで完成させたEnzoも評価が高い。プールのある南仏の豪邸に家族と住む16歳のエンゾは、学業を続けてほしい父親の意向に反して工事現場で働き始める。やがてウクライナから来た年上の同僚に惹かれていく。性的嗜好も含めてまだアイデンティティが確立していない思春期の青年の心の揺れ、決められたレールを歩むことへの反抗がない混ぜとなった気持ちが、丁寧に掬いとられていく。エンゾ(エロワ・ポユ)と同僚(マクシム・スリヴィンスキ)を演じたふたりは共にプロの俳優ではないが、観る者を引き込む説得力がある。