若手が目立ったカンヌのフランス勢
© Paramount Pictures Corporation – Jim Carrey, The Truman Show de Peter Weir / Graphisme © Hartland Villa
スウェーデンのリューベン・オストルンド監督作Triangle of Sadnessがパルムドールをさらった第75回カンヌ国際映画祭は、例年に勝るとも劣らずフランス映画が多かった。オープニングは日本でも公開中の、ミシェル・アザナヴィシウスによるリメイク作「キャメラを止めるな!」。コンペティションにはアルノー・デプレシャン、クレール・ドゥニ、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、アルベール・セラ、レオノール・セライユの5名。クロージングはイザベル・アジャーニとピエール・ニネ共演のニコラ・ベドス監督作Mascarade。またそれ以外のオフィシャル部門にはオリヴィエ・アサヤス、ルイ・ガレル、セドリック・ジムネ、クエンティン・デュピュー、セルジュ・ボゾン、エマニュエル・ムレら、さらに併設の監督週間部門にはミア・ハンセン=ラヴ、アリス・ウィンクール、レア・ミシウスといった女性監督の名が並んだ。
大まかな印象を述べるなら、今年はベテランよりも若手の活躍が目立った。いつものように「壊れた家族」をテーマに半自伝的な作品を撮ったFrère et Soeurのデプレシャンと、ニカラグアを舞台にしたドゥニの英語映画Stars at Noonは、(審査員団はドゥニにグランプリを授与したものの)評価が低かった。またパトリス・シェローの元で演劇を学んだ自身の学生時代を元にしたテデスキの情感溢れるLes Amandiersと、タヒチを舞台に、フランスの旧植民地主義思想を彷彿させるような主人公(ブノワ・マジメル)を風刺的に描いたセラのPacifictionは、支持派の仏批判家と低評価の海外の批評家で意見が分かれた。
一方、前作「若い女」でカメラドールを受賞し、今回初めてコンペティションに選ばれたセライユのUn Petit frèreは、着実に成長しているこの監督の演出力を感じさせた。80年代、2人の幼い息子とともにアフリカからフランスに移住したヒロインの半生を描いた本作は、差別や偏見、フランス社会に受け入れられることの難しさを描いた深刻な作風。とくに個々のキャラクター描写が巧みで、人間ドラマとして見応えがある。
監督と役者の両方で活躍が目立っていたのはルイ・ガレルだ。元パートナーだったテデスキの作品ではシェローに扮する傍ら、「監督週間」の開幕を飾ったピエトロ・マルチェッロのL’Envolでは、クラーク・ゲーブルを彷彿とさせるような、颯爽とした飛行士を快演。さらに75周年を記念し特別上映された監督、出演作L’Innocentでは、囚人に恋をする母親と翻弄されるその息子(ガレル自身が演じる)を、コメディとサスペンスを融合させた軽妙な寓話に仕立てた。
◇初出=『ふらんす』2022年8月号