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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

2017年9月号 年の差55歳の監督コンビ

年の差55歳の監督コンビ

 マクロン大統領夫妻のお陰で年の差カップル(または姉さん女房?)にスポットが当たっている今日この頃。なんと、彼らを凌ぐ55 歳離れたカップルが登場した。といっても、こちらは夫婦ではなく映画監督としてのパートナー。現在89 歳のアニエス・ヴァルダと34 歳の写真家JR だ。ヴァルダの娘で衣装デザイナーであるロザリー・ヴァルダの紹介で出会ったふたりは意気投合し、フランスの田舎を一緒に旅したロードムービー、Visages Villages を監督。今年のカンヌ映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門で披露され、高い評価を受けた。

 今夏日本でもレトロスペクティブが開催されているヴァルダは、以前から『落穂拾い』『落穂拾い・二年後』などの作品で名もない市井の人々にも目を向けてきた。一方JR はイスラエルとパレスチナ自治区の分断壁を写真で飾ったり、パリのパンテオンの内部を人々の顔写真で埋め尽くすなどしてきた、コンセプチュアルでポリティカルなストリート・アーティストとして知られる。彼らに共通するのは、社会的な視点と人間に対する旺盛な好奇心。そんなふたりは、考えてみれば絶妙なコンビと言えるかもしれない。

 ヴァルダの提案でフランスの田舎を回ることになった彼らは、元炭坑の街でいまは過疎化した村で元炭坑夫たちの話を聞き、彼らにオマージュを捧げる写真を掲げたり、港町ル・アーブルで、男たちを支える影の存在である船員の妻たちの写真をコンテナに貼り付けるなど、さまざまアイディアによる活動と交流を繰り返しながら旅を続ける。その過程でヴァルダとJR の絆も深まっていく。とくにふたりの間で交わされるユーモラスなやりとりや、JR のヴァルダに対するリスペクトのこもった気遣いには、心がほっこりする。けっしてサングラスを外さず、いつもとぼけた様子のJR は、ヴァルダも映画のなかで言うように若い頃のゴダールを連想させるが(とくにヴァルダの『5 時から7 時までのクレオ』にカメオ出演した際の彼)、ラストにはゴダールに因んだサプライズのシーンも用意されている。社会派のドキュメンタリーとしても私的なロードムービーとしても、味わい深い作品だ。

 

◇初出=『ふらんす』2017年9月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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