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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

2017年8月号 実力派たちの話題作

実力派たちの話題作

 今年のカンヌ映画祭のラインナップは、映画館でほぼ同時期に公開されたフランス映画が少なくなかった。前号で触れたアルノー・デプレシャンのLes Fantômes d’Ismaël をはじめ、コンペティション部門ではジャック・ドワイヨンの『ロダンカミーユと永遠のアトリエ』とフランソワ・オゾンのL’Amant double、併設の監督週間部門で披露されたフィリップ・ガレルのL’Amant d’un jour も、すでに劇場リリースされた。

 ガレル作品は監督自身が前2 作、『ジェラシー』『パリ、恋人たちの影』に続く3 部作と語るモノクロ映画。なんの予備知識もなく観たら、むかしの作品かと思えるほど、クラシックな趣をたたえた男女の愛の物語だ。新しさはないがこの監督ならではの、はっとするような美しい瞬間があるのは、もはや古典芸と呼びたくなるような領域に達している。

 ドワイヨン4 年ぶりの新作となる『ロダン』は、芸術家の半生を描いた通常の伝記というよりは、彫刻に向かうオーギュスト・ロダン(ヴァンサン・ランドン)の姿勢を通して彼の天分を浮き彫りにした作品。とくに彼の彫刻をみつめる眼差しや、土をこねる手の動きといったディテールに、ロダンの鬼才ぶりが表現される。愛弟子にして愛人だったカミーユ・クローデル(イジア・イジュラン)との関係性も、これまでの映画に描かれていたものとは一味異なり、カミーユがより自立した自信を持った女性として描かれているのが新しい。何よりロダンになりきっているランドンの存在感が映画を牽引する。聞くところによれば彼はこの役のために何か月も彫刻を学び、かなりの腕前になったそうで、そんな“ 本物感” が、画面の隅々まで漂っている。

 オゾンの作品はこの監督らしく、またしても衝撃的で話題を呼んだ。神経性の腹痛に悩まされるクロエが、サイコセラピーに通ううち、医師と恋に落ち結婚する。だがその後、夫のポールには瓜二つの双子のルイがいて、ルイもまた精神科医であるのを知る。ポールとはまったく性格の異なるルイに、クロエは自分の別の人格を引き出されるような印象を持ち、というあらすじだけでも、サスペンスフルなサイコスリラーであることが予想できるのではないだろうか。観客の度肝を抜くファースト・カットからラストに至るまで、こちらの予想を裏切り続けてくれるのが楽しい。クロエ役には『17 歳』でオゾンに見出されたマリーヌ・ヴァクト、ポールとルイの2 役を、『クリミナル・ラヴァーズ』『しあわせの雨傘』に続いてオゾンとは3 度目のタッグとなる芸達者なジェレミー・レニエが演じる。ヴァクトの女優としての成長にも目を見張るものがある。

 

◇初出=『ふらんす』2017年8月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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