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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

2021年をリードしたフランスの女性監督たち

 気付けば、はや年末に近づきつつあるなか、今年もアカデミー賞国際長編映画賞に応募するフランス映画の代表が発表された。選ばれたのは今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたTitane(「チタン」)。子供時代、頭にチタンを埋め込まれたヒロインの驚くべき運命を描いた、空想的なスリラーで、暴力描写の激しさとやや強引な話の展開に、カンヌでは賛否が分かれた。それだけに、アカデミー賞への選出は賭けと言える。

 噂では本作と最後まで競ったのが、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞に輝いたオドレイ・ディワンのL’Evénement(「事件」)だったとか。こちらはアニー・エルノーの原作を映画化した現実的なドラマ。堕胎が合法化されていなかった1963年のフランスで、妊娠をしてしまった学生、アンヌの選択を描く。テーマといい、正攻法の演出といい、この作品の方が無難と言えなくもないが、選考委員は過激なものが好みだったようだ。

 それにしても、カンヌ、ヴェネチアと続けてフランスの若手女性監督が制覇したように、今年は以前にも増して女性監督たちの活躍が目立った。

 もう一本、11月に公開され話題を呼んでいるのが、ヴァレリー・ルメルシエ監督・主演の『ヴォイス・オブ・ラブ』。フランス映画祭横浜のオープニング作品として日本でも披露されたので、すでにご覧になった方もいるかもしれない。カナダ出身の世界的シンガー、セリーヌ・ディオンの半生を下敷きにフィクションとして映画化されたもので、名前もセリーヌからアリーヌに変更。もっとも、最強のカップルと言われ、セリーヌの夫でマネージャーであったレネ・アンジェリルとの関係や、家族構成などもほぼ事実に沿っている。脚本も共同で担当しているルメルシエによれば、変えているのは映画的な醍醐味を与えるような肉付けや細かいジョークだそうで、それによって映画は緩急交えた、華やかで、ユーモラスな寓話に仕上がった。


V・ルメルシエ監督「ヴォイス・オブ・ラブ」

 何より驚くのはセリーヌになりきったルメルシエの熱演であり、ステージ・シーンでは歌の吹き替えはありつつも、本家に劣らぬほどのパワフルなダンスを披露している。

 ともあれ、三者三様の持ち味で勝負する彼女たちの姿は、逞しいかぎりだ。

◇初出=『ふらんす』2021年12月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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