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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

2021年のフランス映画界の運命は

 2度のロックダウンを経験した2020年から、映画館休館のままに新年を迎えたフランス。この号が出る頃にどんな状況を迎えているのかはわからないが、 映画の公開予定が乱れに乱れ、毎年この時期に重なる賞レースのノミネートにも影響が及んだ。公開が延びて結局年明けになったものや、劇場リリースを断念してストリーミングに切り替えたような作品もあるからだ。また2021年のセザール賞授賞式自体も、通常の2月末から3月12日にずらされた。

 昨年11月末から商店が再開するなか、映画館、劇場、美術館など文化セクターが「必要不可欠なものではない」として、もっとも後回しにされたことに対して、文化人、シネアストたちから怒りの声も上がった。映画監督協会は政府に向けた公開レターで、「何を基準に、(衛生基準を守っている)劇場、映画館が教会の集会などより危険な場所だと考えるのか」と訴えた。イザベル・アジャーニは雑誌に掲載された文面のなかで、マクロン大統領が演説で一度も「文化」という言葉を発しなかったことへの失望も露に、「わたしたちアーティストは、不必要であるのと同じぐらい時代錯誤の存在になったようだ」と皮肉たっぷりに記した。

 一方、こうした不満の声が上がるなか、マチュー・カソヴィッツだけは、「我々アーティストがそう考えるのは、自分たちのエゴであって、映画がいまや自宅で楽しめる時代に、映画館は必要不可欠な場所とは言えない。映画館は絶滅の運命にある虎のようなもの」と、相変わらず歯に衣着せぬ発言をして、議論を煽った。

 ともあれ激動の年となった2020年、ここでアカデミー賞国際長編映画賞候補のフランス代表に決まったDeux(「ふたり」)に、ぜひ触れておきたい。バーバラ・スコヴァとコメディ・フランセーズの女優、マルティーヌ・シュヴァリエが、女性同士のカップルを演じた本作は、フィリッポ・メネゲッティの初長編作。世間的には親友同士を装いながらも、ずっと愛し合ってきたふたりが、病をきっかけに家族に知られ、引き離されることになる。監督1作目とは思えない重厚な演出と、名女優ふたりが織り成す深いエモーション、社会的なテーマが一体となって、観る者に訴えかける。ロックダウンの影響で公開時はあまり注目されていなかったが、こうした形で真価が見直されたことは喜ばしい。

 では2021年にはどんな話題作が待機しているかといえば、カド・メラドが主演する、実話を元にした刑務所ドラマ、Un Triomphe(「大成功」)、ヴァレリー・ルメルシエがセリーヌ・ディオンになりきり歌って踊る(自伝ではないとして名前も変えているものの、ほとんどそのもの)監督、主演作Aline(「アリーヌ」)などが控える。

 果たして、今年は映画界にとってどんな1年になるのか。少なくとも昨年よりは安定した年になることを祈るばかりだ。

◇初出=『ふらんす』2021年2月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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