若者たちの叫び
Leurs enfants après euxのポスター
2024年ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、受賞を果たした2作品が、相次いで公開になった。
主演のヴァンサン・ランドンが男優賞を授与されたのが、クラン姉妹監督によるJouer avec le feu(火と戯れる)。いまヨーロッパ全体で問題になっている若者の右傾化にメスを入れた物語である。
男手ひとつでふたりの息子を育ててきたピエール(ランドン)は、躾には厳しいながらも十分な愛情を捧げていた。下の息子(ステファン・クレポン)は学業に精を出し順調に育つが、サッカーが得意で開放的な上の息子(バンジャマン・ヴォワザン)は、いつの間にか右翼思想のグループに感化され、暴力に魅せられていく。そんな彼の状態を知り、なんとか思いとどまらせようと手を尽くすものの、どうにもならない父親の無念が、冷静な語り口で紡がれていく。無骨で熱い男を演じさせたら右に出る者のいないランドンと、『Summer of 85』で一世を風靡した演技派ヴォワザンの対峙が、きりきりとした緊張感をもたらす。映画はなんらかの回答を与えるわけではないが、社会派としても人間ドラマとしても、重量級の見応えのあるものになっている。
もう一作は、人気急上昇中のポール・キルシェ(『動物界』)が、ヴェネチアでマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞したLeurs enfants après eux(彼らに続く子供たち)。2018年にゴンクール賞に輝いたニコラ・マチューの同名小説の映画化だ。映画化権の争奪戦を経てメガホンを握る幸運を手にしたのは、32歳の双子のブケルマ兄弟。これまではホラーやコメディが多かったものの、本作では一転、親とは異なる人生を歩みたいと思いつつ現実の壁に阻まれていく若者の焦燥を、2時間21分にまとめた。
舞台はフランス東部の、元鉄鋼業で潤っていた田舎町。工場が閉鎖された現在は、若者たちの間に広がるドラッグ売買の問題に直面している。そんななか、14歳の一途な少年アントニーは、町の有力者の娘と出会い、叶わぬ恋に身を焦がす。92年から2年ごとに、フランスがワールドカップで優勝した98年までの4つの夏を通し、運命に翻弄される若者たちの姿が描かれる。キルシェの持ち味である不器用なまっすぐさがこの役柄にはまり、観る者の心に切り込む。また原作にも目配せがある、ニルヴァーナ、シュプレームNTMなどの楽曲が効果的に使われ、ノスタルジックなやるせなさを醸し出している。