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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

2018年3月号 ゴンクール受賞作家の小説を映画化


『夜明けの約束』

 2018年は壮大な自伝小説の映画化作品で幕を明けた。ゴンクール賞を二度受賞し(二度目はペンネームのエミール・アジャール)、作家、外交官、映画監督、さらにプライベートでは女優ジーン・セバーグの夫と、複数の顔を持ち、最後は拳銃自殺を遂げたことで知られるロマン・ガリの自伝小説をもとにした『夜明けの約束』である。1914年、ユダヤ系の家庭に生まれたガリは、幼少期を当時のロシア帝国領(現リトアニア)で育つが、フランスを崇拝していた母に連れられ14歳で南仏に移住。女手ひとつで育てあげたひとり息子を溺愛する強烈な母の影響で、仏文学を学び、第二次世界大戦から帰還後、作家としてデビューする。本作はそんな彼の幼少期からの半生を描く。原作の知名度とともに、シャルロット・ゲンズブールとピエール・ニネというスターの顔合わせが話題になった。

 エリック・バルビエ監督は原作に忠実に、母と子の切っても切れない関係に焦点を当て、重圧に苦しみながらもひたすら母の期待に応えようと邁進する息子のせつない姿を映し出す。線の細いインテリ青年にはぴったりのニネの傍ら、初の老け役で有無を言わせぬ強引さを体現するシャルロットのイメチェンぶりに驚かされる。が、300ページにわたる原作の波瀾に富む物語を、多少欲張って詰め込みすぎた感が否めず、感情に浸る余韻を与えるより、駆け足で筋を負うのに精一杯の印象をもたらすのが惜しい。

 もう一作、こちらもゴンクール受賞作家であるエルネスト・ペロションの原作をグザヴィエ・ボーヴォワが映画化したのがLes Gardiennes。第一次大戦中、男たちがいなくなった農家を切り盛りする女たちのドラマだ。女主人のオルタンスと娘のソランジュは、手の足りない畑仕事のために孤児のフランシーヌを雇う。真面目で聡明な彼女を母と娘が家族のように受け入れ始めた矢先……。

 ボーヴォワは自作『神々と男たち』同様、悲劇的な時代の人間ドラマをじっくりと立ちのぼらせる。今回も撮影監督がキャロリーヌ・シャンプティエなだけに、ミレーの「種まく人」を彷彿させるような構図や透明感あふれる映像美も魅了する。

 シャンプティエといえば、彼女が推薦した若手撮影監督トム・アラリを起用したジャン=ピエール・レオー主演、諏訪敦彦の『ライオンは今夜死ぬ』も公開された。南仏を舞台に、老優と子供たちの触れ合いを通して“死と手を携えて歩む生”を優しく見つめる。「レオーは滑稽な瞬間とメランコリーの詰まったこの繊細で幻想的な寓話に完璧だ」(ル・モンド紙)といった、好意的な評が多く見受けられた。

◇初出=『ふらんす』2018年3月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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