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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

秋の映画シーズンの先陣を切る2作

 夏の長いバカンス・シーズンが終わると、秋の訪れとともに大人向けの話題作が封切りになる。今シーズンの第一弾は、アルノー・デプレシャンのRoubaix Une lumière(「ルーベ ある光」)と、セリーヌ・シアマのPortrait de la jeune fille en feu(「炎に照らされた若い女性の肖像」)だろう。両作品とも今年のカンヌ映画祭のコンペティション部門で披露されたものだ。

 デプレシャンは本人の言によれば、「これまで一貫して過剰にロマネスクなものを撮ってきたのは、その過剰さこそを欲していたためだが、今回初めて現実に根ざしたものを撮ろうと思った」ということで、実際の事件を元にしている。それもルーベという、彼の育った街で10年前に起きた殺人事件であり、若い女性のカップルが、隣家の老女を殺害したもの。映画はそれを、地元警察の刑事(ロシュディ・ゼム)の視点から描く。

 若いカップルに扮するレア・セドゥとサラ・フォレスティエの演技が、まず圧巻だ。それを重厚な存在感を放つゼムが受け止める。もっとも、リアリティに根ざしていながらもケン・ローチやダルデンヌ兄弟のようなドキュメンタリータッチの映画ではない。そこはデプレシャンの資質なのだろう、迫真の演技をみせる俳優たち(クローズアップが多い)や、技巧的な映像(夜の闇のなかに浮かびがある顔や炎上する車、途中挿入される詩的な言葉)は、むしろフィルム・ノワールと呼ぶ方が相応しい。いずれにしろ観終わったときのインパクトは、並々ならぬものがある。

 『水のなかのつぼみ』『トムボーイ』で知られるシアマの新作は、18世紀後半を舞台に、若い女流画家マリアンヌ(ノエミ・メルラン)と、彼女が肖像画の注文を受けた伯爵夫人の娘エロイーズ(アデル・エネル)とのロマンスを描く。これまで顔を描かれることを拒否してきた、心を閉ざしたミステリアスなエロイーズをひたすら観察するうちに、心惹かれていくマリアンヌ。その視線はそのまま監督が女優に注ぐ視線でもあり、『水のなかのつぼみ』でエネルを発掘した公私にわたるパートナー、シアマの眼差しは、この女優の表面的な強さだけではない魅力を画面に掬いとる。その瑞々しい感受性に満ちた世界と、女性たちの交流が、観る者の魂を震わせる。この繊細で官能的な魅力は、たとえばジェーン・カンピオンの『ピアノレッスン』に近いと言えるだろうか。最近とみに注目を浴びている、眼力(めぢから)の強さでエネルと並ぶ新星、メルランも印象深い。

 シアマはいま、フランス映画界を面白くする最注目の監督のひとりに違いない。

◇初出=『ふらんす』2019年10月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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