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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

多様性に門戸を開きつつあるセザール賞


2025年度セザール賞のポスター

 本誌が出る頃には、セザール賞も米アカデミー賞も結果が出ているはずだが、この原稿を書いている現在、両授賞式を目前にメディアを騒がせているのが、セザール賞12部門とアカデミー賞12部門13ノミネートを受けたジャック・オディアール監督のミュージカル映画『エミリア・ペレス』である。メキシコが舞台という設定の本作は、製作、撮影はほぼフランスがメインでありながら、言語は英語とスペイン語、俳優もさまざまな人種が集まった作品。だがここにきて、主演俳優カルラ・ソフィア・ガスコンが過去にツイートした人種差別的な発言が掘り起こされ、強い批判を受けているのだ。このスキャンダルによってガスコンは、ノミネーションの剥奪こそされなかったが業界から追放されたも同然の状態となった。昨年カンヌ国際映画祭でワールドプレミアを迎えて以来、『エミリア・ペレス』の人気は鰻登りだっただけに、今回の出来事が作品全体の評価に影響を与えかねないことはなんとも残念だ。
 フランスのセザール賞に話を戻すと、今年のノミネーションは、多様性という点で進化が見られた。長年コメディは見下される傾向にあったのに引き換え、今回は2024年最大のヒット作であるアルテュス監督のUn P’tit truc en plusが、初監督作のカテゴリーにノミネート。またフィールグッドなドラマティック・コメディとして人気を得たエマニュエル・クールコル監督のEn Fanfareが、作品賞を含む7部門でノミネートされた。
 さらに目立ったのは、アラブ・アフリカ系の俳優たちの活躍だ。主演男優賞にノミネートされた、Monsieur Aznavour(シャルル・アズナブールの伝記映画)のタハール・ラヒム、カリム・レクル(Le Romain de Jim)、アダム・ベッサ(Les Fantômes)、アブ・サンガレ(L’Histoire de Souleymane)、主演女優賞にノミネートされたハフシア・エルジ(Borgo)、有望新人女優賞にノミネートされたスハイラ・ヤコブ(Planète B)など。特にまったく演技経験がなかったにもかかわらず迫真の演技を見せたサンガレは、セザール賞の前哨戦と言われる、アカデミー・デ・リュミエール(フランスの外国人記者クラブ)の映画賞で堂々男優賞に輝き、今後が楽しみな逸材。映画が社会の変化を反映するのを受けて、セザール賞もようやく、多様性に門戸を開くようになってきた印象がある。

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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