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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

カミュの名作がフランスで初映画化


L'Étranger のポスター

 アルベール・カミュが1942年に発表し、現代でも世界的にもっとも読まれているフランス文学の片手に数えられると言われる『異邦人』を、鬼才フランソワ・オゾンが映画化した。主人公のムルソーを演じるのは、オゾンの『Summer of 85』で脚光を浴びたバンジャマン・ヴォワザンだ。

 当時フランスの植民地であったアルジェリアを舞台に、母親の葬式を済ませた翌日、何事もなかったかのように恋人と逢瀬にふけるムルソーが、隣人とアラブ人とのいざこざに巻き込まれ、さしたる理由もなくアラブ人を殺す。裁判では反省の色も見せずに死刑を宣告される。小説の冒頭にある、「ママンが死んだ」という有名なモノローグをオゾンは、「アラブ人を殺した」と置き換え、この不条理劇に現代の視点から見た人種差別問題を入れ込んでいる。だがそれはあくまで社会的文脈であり、ムルソーの動機づけではなく、原作の謎は謎として残される。むしろ、モノクロの艶やかな画面に映し出されるムルソー/ヴォワザンのうつろな表情、汗の滲む肉体からはなまめかしさすら立ちのぼり、不可解な行為にどこかエロティシズムをもたらしているのは、この監督ならではだろう。スクリーンに刻まれるヴォワザンの存在感と相まって、映像的鮮烈さを伴った、脚色化の成功例と言える。

 ステファン・ドゥムースティエ監督のL’Inconnu de la Grand Arche(新凱旋門の無名の人)も、フランスで高い評価を得ている話題作だ。1983年、フランソワ・ミッテラン政権下で着工されたパリ、デファンス地区のグランダルシュ(通称、新凱旋門)にまつわる実話を元にした物語。ミッテランの鶴の一声で、フランスでは無名だったデンマーク人の建築家、ヨハン・オットー・フォン・スプレッケルセン(クレス・バング)の設計案が採択されたものの、頑固で完璧主義の彼のもとで予算を大幅に超過。一部変更を余儀なくされたことに彼が激怒して、ついに途中で放棄し、フランス人建築家のポール・アンドリュー(スワン・アルロー)が引き継いでようやく1989年に完成した経緯が描かれる。巨額の工事費が投入された裏での丁々発止のやりとりや、自身の創作に盲目的なアーティストのエゴとその悲しい末路が胸に迫る。久々にスクリーンにカムバックした脇役のグザヴィエ・ドランも含め、芸達者な俳優たちのアンサンブルにも魅せられる。

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