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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

25周年を迎えた『憎しみ』がミュージカルに

 マチュー・カソヴィッツの『憎しみ』が、今年25周年を迎えた。カソヴィッツにとって長編2本目にあたる本作は、カンヌ国際映画祭のコンペティションに出品され、監督賞を受賞。その後フランスで公開になると、現在進行形のパリ郊外(バンリュー)の問題を扱った作品として話題になり、社会現象を巻き起こした。日本でも年を跨いだ96年に公開され注目を浴びたので、ご記憶の方も多いのではないか。


『憎しみ』のポスター

 昨年、カンヌを席巻したラジ・リの『レ・ミゼラブル』が、やはりバンリュー問題に切り込み、フランスでは『憎しみ』と比較されて論じられることが多かった。

 もっとも、両者のアプローチはまったく異なるのが面白い。自身が生まれ育った街を舞台にしたラジ・リは、バンリューを内側から描き、真に迫るドキュ・フィクション・スタイルを取っていた。一方、映画監督の父を持ち、パリ育ちのカソヴィッツは、よりアーティスティックな作風で、彼の言葉を借りれば「バンリューを外から客観的に描いている」。住人もどこかのんびりしていて、若者たちは手持ちぶさたで時間つぶしにパリに出てみるものの、何をしていいかわからない、といった心境がよく描かれている。そんななかで、突発的な事態が起こり、悲劇に包まれる。

 両者を比較すると、バンリューは良くなるどころか、さらに殺伐としているのではないかと思えてくる。つい最近も、警察の暴力的な行動が事件に繋がり、ちょっとした暴動が起きたばかりだ。

 ところで、25年を経た今年、カソヴィッツ自ら『憎しみ』をライブ・ミュージカルとして上演するプロジェクトが進行している。ミュージカルといえば、『ラ・ラ・ランド』以来再びブームとなり、現在スティーブン・スピルバーグも『ウエスト・サイド物語』のリメイクを作っているほど。

 インタビューに応じてくれたカソヴィッツによれば、ミュージカル化の願望は以前からあったと言うが、バンリューへの再注目と昨今のミュージカル・ブーム、さらに25年という節目ゆえに実現可能になったようだ。「映画の各シーンをミュージカルにして語り、映画とはまた異なるアングルから見せる」そうで、公演は2021年の12月予定とか。再び大きな話題になるのは間違いないだろう。

◇初出=『ふらんす』2020年7月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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