フランス映画からラブシーンが消える!?
新型コロナ・ウイルスの影響により、2か月以上休館していた映画館がようやく、6月22日に再開した。新たな幕開けにあたっては、政府のガイダンスのもとに細かい規則が定められた。たとえば密接になるのを避けるため、座席は交互に空席をもうけ(ただし家族やカップルなど、複数で入場した場合は、隣同士に座ってもよいが両サイドは空ける)、定員は50パーセントとする、上映ごとに空気の入れ替えに気を配り、シネコンの場合はロビーで密集しないよう、各シアターの終映時間が重ならないようにする、観客のマスク着用は義務ではないものの、とくにロビーや売店ではなるべく着用することが望ましい、など。
公開本数は、閉館により中断を余儀なくされたものに、延期になっていた作品が加わり、なかなかの激戦だ。フランス映画では、エマニュエル・ドゥヴォスが調香師に扮するLes Parfums(「香水」)、ニコラ・デュヴォシェル主演のファンタジー、Une Sirène à Paris(「パリの人魚」)、女優オドレイ・ダナの監督するコメディHommes au bord de la crise de nerfs(「神経衰弱ぎりぎりの男たち」)、5月に開催されなかったカンヌ映画祭が発表した「カンヌ・レーベル」(カンヌで上映されるはずだった作品)に選ばれたフランソワ・オゾンの新作 ÉTÉ 85(「85年、夏」)などが夏までに順次公開される。
フランソワ・オゾン新作 ÉTÉ 85
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業界関係者にとっては、外出制限下に自宅で映画を観ることに慣れてしまった人々が、果たして映画館に戻ってくるのか、という不安とともに、公開ラッシュで不人気の映画はすぐに打ち切られる恐れもある。さらにバカンスシーズン突入でどのみち大した売り上げが期待できないという問題も。
一方、パンデミックは今後制作サイドにも大きな影響を及ぼすだろう。撮影に関しても詳細な規定が用いられるからだ。とくにラブシーンなど密接な触れ合いがある場面はなるべく排除することが奨励され、無理な場合は撮影前の検診や俳優同士の合意を必要とする。リスクやコストが増えるため、プロデューサーによっては、避けたがる場合も出てくるかもしれない。そうなれば、物語の内容に響きかねないだろう。
ラブシーンのないフランス映画など、スパイスを入れ忘れた料理のように味気ないものになりそうで、作り手としては頭の痛いところだ。いずれにしろ、当分のあいだ試行錯誤が続きそうである。
◇初出=『ふらんす』2020年8月号