奇抜なユーモアに満ちた、SF映画のパロディ
ブリュノ・デュモン監督L’Empire
ブリュノ・デュモン監督といえば日本では『ジーザスの日々』(1997)『ユマニテ』(1999)など、ラジカルでシリアスな作家主義系の監督というイメージが強い。だが最近はコメディも手がけ、といっても通常のそれとはかけ離れラジカルであることに変わりはないのだが、笑えるような笑えないような、オフビートな作品を撮っていたりもする。
そんな彼の新作は、今年のベルリン国際映画祭で審査員賞に輝いたL’Empire(エンパイア)。ポスターは一見チープな娯楽映画のようだが、『スター・ウォーズ』などのSF映画を揶揄した内容は、あまりにシュールで娯楽を飛び越えた衝撃がある。
フランス北部の街に人間に化けた宇宙人が侵略し、人間社会をのっとろうと目論む。ただし大仰な対決シーンがあるわけでもなく、宇宙人はあくまでマイペース。対する人間も朴訥としている。シニカルなユーモアが浮き立ち、ときにいびつな笑いを誘う。感心するのは、SFらしい装飾は巨大な宇宙船や城を改装したような宇宙人基地(?)ぐらいでありながら、それがのどかな田園風景に現れる違和感が尋常ではなく、これほど低予算で印象的な映像を作りあげてしまえること。VFXだらけのアメリカ映画などとは大違いだ。自然のなかの人間の営みを、ときに風刺を込めて俯瞰するデュモンの視線の鋭さは相変わらず。ダース・ベイダーもどきのアンチヒーローに扮するファブリス・ルキーニの飛ばしっぷりにも、魅せられる。
作曲家のモーリス・ラヴェルが1928年に生み出した「ボレロ」は、現代もバレエの名曲として知られる。それが生み出される過程を描いたのがアンヌ・フォンテーヌの新作Boleroだ。ラヴェルに扮するのは、『黒いスーツを着た男』のラファエル・ペルソナ。完璧主義者で卓越した管弦楽法を得意としたラヴェルが、ロシアのバレエダンサー、イダ・ルビンシュタイン(ジャンヌ・バリバール)の依頼で、何度も挫折しながらもボレロの楽曲を完成させる。映画はディテールの描写にこだわるあまり、全体の流れにやや勢いが欠ける印象があるものの、ラヴェルの緻密さと育ちの良さ、自身の音楽を追求しながらも謙虚な人柄が滲み出たペルソナの演技に牽引されている。