国民的シリーズが、フランス映画界を救う?
映画Astérix et Obélix : L’Empire du milieu
コロナ禍の影響から低迷を続けていたフランス映画界に、ようやく活気が戻ってきた。その立役者は、日本での水戸黄門に匹敵するような(?)フランスの国民的BDシリーズ、「アステリックスとオベリックス」の新作Astérix et Obélix : L’Empire du milieu(アステリックスとオベリックス:中国編)の公開だ。2月1日に公開され、初日(プレミア試写も含む)でおよそ46万人の動員数を叩き出した。この数字は、一足早く公開を迎えた『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』をも超えて、ここ10年来で最高とか。さらに2週間後には280万人を超え、フランス映画界の救世主となった。
もっとも、評判が良いかといえば、むしろ批判の声の方が大きい。ネットに出ている一般人のリアクションを拾うと、「ギャグが低レベルで面白くない」「ミス・キャスト。有名人オンパレードだがリディキュール」「脚本がひどい」「原作のエスプリが感じられない」といった辛辣な評価が見られる。わたし自身まったく笑えなかったのは文化の違いかとも思ったが、自由に脚色された内容は自国の原作ファンにも受けなかったようだ。つまり当たった理由は、豪華キャストのネームバリューと大量の宣伝効果により、「とりあえず観なければ」という気にさせた結果と言えるだろう。たしかに、監督も務めたアステリックス役のギョーム・カネ、ジル・ルルーシュ(オベリックス)、マリオン・コティヤール(クレオパトラ)、ヴァンサン・カッセル(シーザー)、フランスで人気のコメディアン、ジョナサン・コーエンとラムジ・ベディアなどに加え、歌手のアンジェール、さらにサッカー選手のズラタン・イブラヒモヴィッチ(いったいギャラはいくらだったのか!?)など、さまざまな業界の人気者を担ぎ出し、あらゆる層に訴えようとしているのが伺える。とはいえ、きわどいギャグなどもあり子ども向けとは言いにくい。まあ、これで映画業界が活性化してくれるのなら、それもまた良しとするべきか。
今月お勧めしたいのは、むしろアニメーションの『イヌとイタリア人、お断り!』(フランス映画祭2022で日本でも上映した)だ。20世紀初頭にイタリアからフランスに移住したアラン・ウゲット監督の祖父母をモデルに、手の込んだユニークなパペット・アニメで描かれる。ユーモアを盛り込みつつも、イタリア系移民の辛い歴史を描き出し、見どころに富んでいる。
◇初出=『ふらんす』2023年4月号