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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

オンライン映画祭で才能を発見

 例年年明けに開催されるオンライン映画祭のマイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル(MyFFF/ https://www.myfrenchfilmfestival.com)が、今年も1月半ばから2月15日まで、1か月にわたり開催された。日本にはまだあまり浸透していないかもしれないが、フランス映画を世界にプロモートする団体、ユニフランスが主催し、今年で第11回目を迎えた。世界各国から短編は無料で視聴でき、長編も一作品1,99ユーロと格安なうえ、各国さまざまなプラットフォームと提携した視聴も可能なため、年々利用者が増えている。

 今年は長編、短編ともに10作品が出品された。なかでも注目を集めたのは、フランスで昨年のベスト・ドキュメンタリーの1本と謳われたセバスチャン・リフシッツのAdolescentes(「私たちの青春時代」)だ。地方都市に住む平凡なふたりの少女を、13歳から18歳までカメラで捉えたもの。多感な時期における彼女たちの変化を掬いとり、思春期の少女たちの繊細なポートレートに仕立てながら、ふたりの姿を通して、フランスの現代社会の姿をも浮き彫りにする。じっくりと時間をかけて作られた、この監督らしい優しさに満ちたドキュメンタリーである。


昨年高い評価を得たドキュメンタリーAdolescentes

 他にも、アブデラティフ・ケシシュ監督の「クスクス粒の秘密」で注目された女優、アフシア・エルジ監督・主演のTu mérites un amour (「君は愛にふさわしい」)、アフリカで若くして命を落とした実在のフォト・ジャーナーリストに扮した演技が高く評価された、ニナ・ミュリス主演のCamille(「カミーユ」)、『燃ゆる女の肖像』のアデル・エネルが主演した、Les Héros ne meurent jamais(「英雄は死なない」)など、女優映画が充実している。アニメ作品では、昨年カンヌレーベルに選ばれたJosep(「ジュゼップ」)がある。またコンペティション外で、ジャン・コクトーの『オルフェ』や、アルノー・デプレシャンの1990年の短編『二十歳の死』、さらにVRの短編作品も。

 まだあまり知名度を得ていない若手世代のプロモートを目的としているだけに、新しい才能を発見したい方には注目だ。作品によっては日本語字幕のないものもあるものの、本誌の読者には、それもまた生きたフランス語に親しむいい機会と言えるのではないだろうか。

◇初出=『ふらんす』2021年3月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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