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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

フランスに増える「ジャンル映画」

 今年のカンヌ国際映画祭の特徴のひとつに、Cinéma de genre(シネマ・ド・ジャンル/ジャンル映画)が目立ったということが挙げられる。そもそもジャンル映画とは何か、と言えば、はっきりした定義はないのだが、いわゆるホラー、スプラッターなどのファンタスティック系映画とされている。「カテゴリー」に拠らず、限りなく低予算でどこかB級的ノリが漂うものだ。

 これは現在フランス映画界でも流行りのようだ。6月の封切り作品には、カンヌの監督週間部門で上映されたベルトラン・ボネロのZombi Child(「ゾンビ・チャイルド」)がある。ゾンビの由来と言われるブードゥー教の発祥の地であるハイチで、55年前に生き埋めにされた男と、その子孫が生きる現代のパリを平行して描いた作品だ。ただしボネロらしく、ゾンビの題材を知的にコンセプチュアルに料理したもので、逆に純粋なゾンビ映画を期待すると肩透かしを食わされる。

 一方、ゾンビ映画ではないが、これまでずっとシュールでユニークな作品を生み出してきたのが、ミスター・オイゾの名前でDJとしても知られるクエンティン・デュピュー。彼の新作Le Daim(「スエード革」)もカンヌ・監督週間のオープニング作品として上映された後、一般公開になった。スエード革に魅せられ、それしか身に付けなくなる男の物語で、主人公にジャン・デュジャルダンが扮する。爆笑するようなコメディではなく、シュールであまりにイカれ過ぎているので吹き出してしまう作風。それが案外デュジャルダンの個性とマッチしている。


Le Daim(「スエード革」)

 さらにもう一本、監督週間にはYves(「イヴ」)というコメディがあった。こちらはある日届いた機械仕掛けの喋る冷蔵庫に恋をする主人公の話。まるで『2001年宇宙の旅』の会話するコンピューターか、はたまたスパイク・ジョーンズの『her/世界でひとつの彼女』で主人公が恋をする人口知能型OSを彷彿させる。イヴという名前の冷蔵庫は主人の食生活にも口を出し、日増しに彼の生活はイヴに左右されるようになっていく。ただしスパイク・ジョーンズほどには展開がないのが惜しいところ。もっとも、これら3本はカンヌ後にパリのフォーラム・デ・ジマージュで開催される「監督週間再上映」特集でも注目を集めていた。

 いまジャンル映画が熱い視線を浴びている理由は、アイディア次第で低予算でも映画化できることや、型に嵌められるのではなく新しいことをやりたい、と思う若手監督たちが増えているからかもしれない。フランス映画界もマンネリ傾向にあると言われるなか、斬新なアイディアを持った作品が現れることは大いに歓迎だ。

◇初出=『ふらんす』2019年8月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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