2018年5月号 女性の権利を訴えたセザール賞授賞式
今年も年度末を締めくくるセザール賞の授賞式が3月2日に行われ、2017年のフランス映画を振り返る契機となった。結果的に、ロバン・カンピヨ監督がエイズ対策を求める活動団体ACT UP Parisの姿を描いた『BPM ビート・パー・ミニット』(作品賞、助演男優賞/アントワン・ライナルツ、有望新人男優賞/ナウエル・ペレーズ・ビスカヤートを含む最多6 冠)と、ピエール・ルメートルのゴンクール受賞小説を映画化した、アルベール・デュポンテル監督・主演のAu revoir là-haut(「天国にさようなら」)(監督賞他5 冠)が賞を分け合った印象だ。また以前この欄でご紹介したPetit paysan(「些細な農民」)が、男優賞(スワン・アルロー)、助演女優賞(サラ・ジロドー)、初監督作品賞(ユベール・シャルエル)の3 冠、女優賞には『バルバラ』のジャンヌ・バリバールが輝いた。
セザールのセレモニーでは毎年、前年に亡くなった人々にオマージュを捧げるのも定例だが、昨年はとくにジャンヌ・モロー、ダニエル・ダリュー、ジャン・ロシュフォール、ミレーユ・ダルク、さらにジョニー・アリデーら、フランス映画界を彩った往年のスターたちが相次いで亡くなったため、あらためて時代の移り変わりを感じさせられた。
ところで今回目立ったのは、参加者全員が胸に白いリボンのブローチを付けていたことだ。これは式の数日前に発足したFondation des femmes(女性の財団)の紋章であり、女性の平等と、暴力からの保護を訴えようと、式の入り口で参加者に配られたものだという。昨年発覚したハリウッドのプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのスキャンダルを発端にしたセクハラ問題は、フランスの映画界でも大きな話題になっていたが、ついにこうした正式な団体が作られるに至った。団体では、#MaintenantOnAgit(「今こそ行動を」の意味)というキャンペーンをもうけて、映画界に限らず、被害に遭ったすべての女性が相談できる受け皿の役割を果たしていく。
授賞式では冒頭、司会のコメディアン、マニュ・ペイエがこれを表彰して全員の起立を呼びかけ、会場が湧いた。その後も受賞スピーチでこのテーマに触れる女性たちが見受けられたなか、作品賞に輝いた『BPM ビート・パー・ミニット』の女性プロデューサー、マリー= アンジュ・ルチアニが、「女性の活動は脅威ではありません。(未来への)可能性です。歴史が証明してくれるでしょう」と語ると、大きな拍手がわき起こった。
たんにゴシップで終わらず、改善に向けて社会的な団体が発足するところがフランスらしい。日本もぜひ見習いたいところだ。
◇初出=『ふらんす』2018年5月号