彼女の名前はオクサナ
OXANAのポスター
オクサナ・シャチコという名前は、日本であまり馴染みがないかもしれない。ウクライナで2008年に生まれたフェミニストの抗議団体、FEMENの創設メンバーのひとりであり、その激しい気性とメンバーのなかで最初にトップレスで抗議をしたことで知られる社会活動家にして画家である。当時の政権下の圧力から逃れ2012年にフランスにわたり活動を再開するも、その6年後、31歳の若さで首吊り自殺をするというショッキングな最期を遂げている。そんな彼女の半生が、『スラローム 少女の凍てつく心』(2020)で長編デビューしたシャーリーン・ファヴィエ監督の手で映画化された。
貧しくも宗教心の強い家庭に育ったオクサナは、14歳のとき、堕落した司祭に失望して無神論者になる。その後大学に進学し、社会における女性の地位の改革に目覚め、アクティビストとして活動を始める。やがて運動の激化とともに警察当局と衝突を繰り返し、ついに身の危険から国外に脱出せざるを得なくなる。なんとかパリに身を落ち着け、仲間と再会を果たすものの……。
ファヴィエ監督はこうした彼女の軌跡を、その強さと脆さを秘めた複雑さを通して描く。また女性同士の連帯と、それが方向性の違いによって崩れていくことへの失望、幻滅も掬い取る。パリに来て以来、オクサナの生活は以前より安定し、その活動もマスコミに注目されるようになるものの、花輪やボディペインティングなどその表層的なスタイルばかりが語られることに耐えられず、さらには異国の地で部外者としての無力さも痛感し、日に日に虚無感を募らせていくのである。
100人以上のウクライナの俳優の中からオクサナ役を射止めたという、アルビナ・コルツの演技が出色だ。母親からジャンヌ・ダルクと呼ばれていたオクサナのスピリチュアルな面、純粋さ、激しさ、奔放さがもたらす危うさなど、さまざまな顔を差し出す。
理想に燃えた女性が社会の障壁に阻まれ苦悩するというテーマは、ファヴィエ監督の前作とも共通するだろう。Oxanaは、「彼女の熱情、反抗心、自由を求める心に共感を禁じ得なかった」と語る監督の思いが滲み出た、ずしりと胸に響く作品である。