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「アクチュアリテ 本」

人生における最高の投資 榎本恵美


Antoine Compagnon, La littérature, ça paye !

 今、読むべき理由がある本を厳選するガリマール社の叢書〈Folio Actuel〉から、今年1月、アントワーヌ・コンパニョンのLa littérature, ça paye !が刊行された。著者のアントワーヌ・コンパニョンは、ロラン・バルトの弟子であり、ソルボンヌやコロンビア大学を経て、コレージュ・ド・フランス教授、そしてアカデミー・フランセーズ会員に名を連ねる、いわば「泣く子も黙る文学の権威」である。しかし、その肩書きとは対照的に、一般読者に開かれた良質なベストセラーを世に送り出してきた。研究者には珍しいほど「文学への愛」を隠さず、上品かつ平易な言葉で語りかけるスタイルは、多くの読者を魅了してやまない。

 その代表格が、独立系出版社Éditions de l’Équateurで展開されている〈Un été avec...(〜と過ごす夏)〉シリーズだ。第一弾Un été avec Montaigneは難解な古典の著者を同時代の隣人のように描き出し、ベストセラーを記録。フランスに「モンテーニュ・ブーム」を巻き起こした。日本でも『寝るまえ5分のモンテーニュ』(山上浩嗣・宮下志朗訳、白水社)として翻訳刊行されている。

 今回Folio版となった本書の親本も、このÉditions de l’Équateurから2024年に刊行されている。もともとは、2012年に東京大学にて同タイトルで行われた、日本仏文学会50周年記念講演が元になっており、当時の講演は文芸誌にも再録されている。タイトルに聞き覚えがある人もきっといることだろう。

 「文学は、稼げない」。これは誰もが知る常識だ。筆一本で食べていけるのは、ほんの一握りの作家だけの特権である。しかし、コンパニョンは、文学を「コスパ」や「タイパ」で測る現代社会を皮肉りつつも、文学こそが「人生における最高の投資」であることをユーモア交えて証明していく。金銭的な実入りは少ないかもしれないが、文学は私たちを「思いもよらない方法」で豊かにしてくれる。市場原理では測れない価値、読み書きがもたらす「本当のリターン」は、私たちが想像するよりもはるかに大きい。とどのつまり、文学は「報われる(paye)」、あるいは邦題が示す通り「割に合う」ものなのだ。

 日本で語られた思想がフランスで結実し、再び日本のフランス語専門書店「レシャピートル」の棚に並ぶ。この深い縁を感じながら、邦訳『文学は割に合う!』(本田貴久訳、作品社、2006年)と共に、「一生ものの財産」に出会う喜びを、一人でも多くの方に味わっていただければ書店員として幸いである。(えのもと・えみ=書店Les Chats Pitres代表)

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