ヌーヴェル・ヴァーグの金字塔の舞台裏

Nouvelle Vagueのポスター
ヌーヴェル・ヴァーグの金字塔、ジャン゠リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』(1960)が撮影された舞台裏を描く、そんな大胆不敵なことをやってのけたのが、『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995)に始まる“ビフォア3部作”などで知られるアメリカ人監督、リチャード・リンクレイターである。学生時代から大のシネフィルであった彼は、ヌーヴェル・ヴァーグに大きな影響を受けて育ち、いつか映画作りをテーマにした作品を撮りたいと思い続けていたとか。
その名もNouvelle Vagueと題された本作は、フランス語によるれっきとしたフランス映画だ。まだ若く、映画批評を書いていた青年ゴダール(新鋭、ギョーム・マルベック)が、親友フランソワ・トリュフォー(アドリアン・ルヤール)のデビューに背中を押され、プロデューサーを説得しながら初監督作を撮り上げる様子が描かれる。脚本は毎日変わり、ゴダールが煮詰まるとその日の撮影は突然終了に。すでにアメリカでスターになっていたヒロイン役のジーン・セバーグ(ゾーイ・ドゥイッチ)は呆れながら、「このうんざりするような映画は一体いつ終わるの?」と嘆き、ジャン゠ポール・ベルモンド(笑い方が本人にそっくりのオブリー・デュラン)はそんな現場自体を楽しみながら、「永遠に終わらないよ」と冗談混じりに返す。そんな滅茶苦茶な撮影でありながらもみんなが情熱にあふれ、即興精神を発揮して、結果的に誰も観たことがないような革新的な映画を作り上げる。
ここには映画の神と崇められるゴダールの姿はない。サングラスでカモフラージュしながらも、焦り、煮詰まり、現実と格闘する無名の映画作家の姿があるだけだ。
リンクレイターが過去作で起用し、「わたしのセバーグと決めていた」と言うドゥイッチ以外は無名の俳優にこだわったキャスティングは功を奏し、とりわけゴダール役のマルベックは、わざとらしさのない自然体のゴダールを体現して、観る前の不安を吹き飛ばしてくれた。ユーモラスで軽妙な映画の語り口も一層、彼らの映画作りの純粋な喜びを観る者にもたらす。ヌーヴェル・ヴァーグが生まれた時代のパリにタイムワープし、観終わったあとは幸福な気分に浸れることだろう。



