第16回 形容詞派生接尾辞
Q:으語幹用言の形容詞には‘쁘’や‘프’を含むものが多いように思います。何か理由があるのでしょうか。
A:たしかに、으語幹用言の形容詞には、기쁘다《嬉しい》や아프다《痛い》などのように、語幹が‘쁘’や‘프’で終わるものがよく目につきます。もちろん、これには語史的な事由があります。
中世語には動詞から形容詞を作る派生接尾辞がいくつかあり、そのひとつに-β-という形態素がありました。-β-には5つの異形態があり、結合する語幹の末音が母音の場合は-β-、/z/の場合は-βʌ/βɨ-(注1)、それ以外の子音の場合は-pʌ/pɨ-という形で実現しました。例えば、mɨi-《憎む》に-β-が付いてmɨiβ-《憎い》(現代語では밉-)、’uz-《笑う》に-βɨ-が付いて’uzβɨ-《おかしい》(現代語では우습-)、pach-《急ぐ》に-pʌ-が付いてpaspʌ-《忙しい》(現代語では바쁘-)という形容詞が形成されました。
このようにして派生した、現代語にも残る形容詞としてはほかに、그립-《恋しい》(<그리-《恋い慕う》)、놀랍-《驚くべきだ》(<놀라-《驚く》)、미쁘-《頼もしい》(<믿-《信じる》、中世語ではmitpɨ-)、뉘우쁘-《悔いがある》(<뉘읓-(注2)《悔やむ》、中世語ではnui’ɨspɨ-)などがあります。두렵-《怖い》は中世語のturiβ-《ibid.》が変形した語で、これも古語두리-《怖がる》に-β-が付いてできた形です。また、現代語では死語になっていますが、中世語の잇브-《疲れている》や저프-《怖い》も、おのおの動詞잋-《疲れる》、젛-《怖がる》に-pɨ-が結合した派生形容詞です(注3)。
기쁘-《嬉しい》は、《喜ぶ》の意の動詞kisk-に-pɨ-が付いたkispɨ-《嬉しい》に由来します。現代語においてはkisk-は廃語化し、《喜ぶ》の意の動詞としては기뻐하-という、기쁘-からさらに派生した単語が用いられますが、kisk-の末音kは、기껍-《嬉しい》、기꺼이《喜んで》などの中にその形跡を留めています。
아프-《痛い》は、’arh-《病む》に-pʌ-が付いた’arphʌ-、고프-《ひもじい》は、korh-《(腹を)すかす》に-pʌ-が付いたkorphʌ-が変化した形ですが、いずれも現代語では/r/が脱落しており(注4)、元の動詞との関係性が不透明になっているために、母語話者の間でもその語源意識はおそらく稀薄であろうと思料されます。一方で、슬프-《悲しい》も、中世語のsɨrh-《悲しがる》に-pɨ-が付いた形ですが、/r/はしっかりと把持されています。
このように、中世語には-β-という形容詞派生接尾辞があり、その異形態である-pʌ/pɨ-を含む形容詞が現代語にも残っていますので、으語幹用言の形容詞には‘쁘’や‘프’を含むものが多いように感じられるのだと思います。
また、中世語には動詞から形容詞を派生させる別の接尾辞として、-’aβ/’eβ-(注5)という形態素もありました(/i/で終わる語幹に付くことが大半でその際には/i/は脱落)。例えば、現代語の아깝다《惜しい》、즐겁다《楽しい》、무겁다《重い》はそれぞれ、中世語の’aski-《惜しむ》(現代語では아끼-)、cɨrki-《楽しむ》(現代語でも즐기-)、mɨki-《重くする》(現代語では死語)に、-’aβ/’eβ-が結合してできた形容詞に来由します。
如上の通り、中世語には、現代語では生産性を失い、個別的な単語の中に面影としてのみその存在が触知される派生接辞がいくつもありますが、最後にもうひとつ面白いものを紹介します。動詞から副詞を作る接尾辞-’o/’u-(注6)です。例えば、너무《あまりにも》はもともと넘-《越える》に-uが付いてできた派生副詞です。자주《しょっちゅう》はcʌc-《頻繁だ》に-oが付いたcʌcoが変化してできた副詞、모두《すべて》もmot-(注7)《集まる》に-oが付いたmotoを経て生まれた副詞です。類例としてはほかに마주《向き合って》(<맞-《迎える》)、도로《再び》(<돌-《回る》)などがあります。
(注1)前者は陽母音語幹、後者は陰母音語幹に付きました。-pʌ/pɨ-についても同断。このように、中世語では現代語よりも母音調和が厳格に守られていました。
(注2)現代語では뉘읓다という語形は用いられませんが、뉘우치다という形で残っています。
(注3)なお、저프다は現在でも済州道方言では使われているようです。
(注4)近代語において、/ph/の直前の/r/が脱落するという現象はほかにも見られました。例えば、앞《前》は中世語では앒でしたが、近代語の段階で앞へと変わります。
(注5)前者は陽母音語幹、後者は陰母音語幹に付きました。
(注6)前者は陽母音語幹、後者は陰母音語幹に付きました。
(注7)《すべての》を意味する連体詞모든も、このmot-の過去連体形に由来します。



