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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

アカデミー賞フランス代表に選ばれた話題作

 2026年のアカデミー賞、国際長編映画賞のフランスを代表する作品が選出された。プレ・セレクションに残った5作品(ジャファール・パナヒのUn Simple Accident、アフシア・エルジのLa Petite dernière、リチャード・リンクレイターのNouvelle Vague、レベッカ・ズロトヴスキの Vie Privée、ウゴ・ビヤンヴニュのアニメーション映画 Arco)のなかから最終的に選ばれたのは、フランス、ルクセンブルク、イラン合作で、今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたパナヒ監督のUn Simple Accident(単なる事故)だ。合作の内訳でフランスからの投資が半分以上のため、条件をクリアしているからではあるが、イラン人監督によりイランで撮られた(フランスとは縁のない)イランの話ということで、この決定に不服の業界関係者もいるようだ。おそらく政治的な話題性とパルムドール受賞という後押しも鑑みての選択と言えるだろう。もちろん作品としても、政治性と面白さと感情面のバランスがとれた力作である。


Un Simple Accidentのポスター

 ある日ちょっとした事故に巻き込まれた主人公は、その相手が、かつて自分を拷問した当局の者だと直感する。その後自分と同じ目に遭った仲間たちと共に彼を誘拐し、復讐を果たそうとするが、男が断じて否定を続けるために確信が揺らぐ。さらに男が妊娠中の妻を抱えていると知ったところ、その妻が突然産気を催し……。

 復讐と赦しがテーマの深刻な物語であると同時に、スリラー、アクションの要素もあり、ときにはユーモラスな場面すら挟まれる。その熟練した手さばきこそが、この監督ならではと納得させられる。

 今年のベルリン国際映画祭で芸術貢献賞に輝いたルシール・アザリロヴィック監督(『エコール』『エヴォリューション』)のLa Tour de glace(氷の塔)も個性的な作品だ。70年代、人里離れた村に住む思春期のジャンヌ(新人、クララ・パチニ)は、都会に出ようと地元を飛び出す。その道中で見つけた廃墟で偶然にも「白雪姫」の撮影を目にし、主演女優(マリオン・コティヤール)に見初められたことからジャンヌの不思議な旅が始まる。雪に囲まれた情景とシュールなセットの映像美が寓話性を醸し出し、「不思議の国のアリス」さながら、現実からおとぎの国に迷い込んだ少女の成長物語と言える。

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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