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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

仏映画界を再び揺るがす#MeToo

 ここにきて再び、フランス映画界が#MeToo ムーブメントに揺れている。11月3日、『午後8時の訪問者』や『BPM ビート・パー・ミニット』で知られる人気女優のアデル・エネルがMediapart という媒体の取材で、18年前の映画デビュー作『クロエの棲む家』のクリストフ・ルッジア監督をセクハラで告発したことが、激震をもたらした。エネルは12歳から15歳までのあいだ、ルッジア監督の自宅に毎週末のように呼ばれ、身体を触られるなどの被害にあっていたという。ただし彼女は今日告訴するつもりはなく、公表したのは見て見ぬ振りを続けてきた業界全体の意識を変えるため、そして沈黙を強いられている同じような被害者たちを勇気づけたかったからだという。ルッジア監督は(この原稿を書いている時点で)あくまで否定しているが、目撃者の発言もあり、エネルの決断にイザベル・アジャーニやマリオン・コティヤールら同業者をはじめ、映画業界の大多数が支持を表明している。

 さらに追い討ちをかけるように、新作J’accuse の公開を控えていたロマン・ポランスキーにも新たなセクハラ告発が持ち上がった。女優のヴァランティーヌ・モニエが1975年、18歳のときにスイスのスキー場に滞在中暴行されたと訴えたものだ。ポランスキーは否定しているものの、彼に対するセクハラ被害の声はこれが5人目であり、舞台挨拶が予定されていた新作の披露試写のひとつが、フェミニスト団体の反対に遭って中止に追い込まれた。もっとも、映画は予定通り公開になり、この騒ぎが手伝ってか否か、好調な出足となっている。

 今年のヴェネチア国際映画祭で審査員グランプリを受賞したJ’accuse(「わたしは弾劾する」)は、フランスで歴史的な冤罪ケースとして知られるドレフュス事件を映画化したもの。1894年、ユダヤ系軍人ドレフュス(ルイ・ガレル)が、反ユダヤ主義者たちによりスパイとして告発された事件を、防諜機関の責任者に任命されたピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)が真相解明に乗り出す。これまでのコミカルなイメージを覆すようなデュジャルダンの演技が印象的だ。

 ドレフュス事件といえば、エミール・ゾラが新聞に冤罪を暴く公開状を発表したことでも知られるが(題名はゾラの記事の見出しに拠る)、ポランスキーはむしろ目立たない影の功労者であったピカールに注目し、彼の視点から当時のフランス社会の実情、軍部に蔓延した人種差別の空気を露わにする。社会派映画としてもスリラーとしても一級の作品で評価が高いだけに、彼自身にまつわる#MeToo騒動が、なんとも暗い陰を落としている。

◇初出=『ふらんす』2020年1月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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