エイジレスで変幻自在なユペールの快進撃
9月から映画館にも本格的に人が戻ってくるのを期待していたものの、この原稿を書いている9月半ばの状況は、正直あまり芳しくない。人々の映画館離れに拠るものなのか、あるいは話題作がまだあまり公開されていないからなのか。フランスのコロナ感染は再び上昇しているものの、カフェのテラスが盛況なのを見る限り、映画館に来るのを怖がっている様子はあまり見られないのだが。
それでも健闘している作品はある。今月は、アンヌ・フォンテーヌがヴィルジニー・エフィラとオマール・シーを起用したPolice(警察官)、エマニュエル・ムレ監督の恋愛群像劇Les Choses qu’on dit, les choses qu’on fait(言うこととやること)、ジャン=ポール・サロメ監督、イザベル・ユペール主演のLa Daronne(ゴッドマザー)が好評を得ている。
ユーゴ・ボリスの原作を映画化したPoliceは、それぞれに事情を抱えた3人の警察官が、不法滞在で捕まった外国人を本国に強制送還するため、空港に連行する任務を負う。だが自国の拷問を逃れてきたこの男は、戻れば確実に殺される。それでも、倫理を押し殺して任務を遂行するべきなのか、というジレンマのなかで、考え方の異なる警官たちが反目し合う。フォンテーヌ監督にとってはこれまででもっとも暗い、社会派のテーマに挑んだ本作は、現代の移民問題を反映するタイムリーな作品と言える。
ムレの作品は、従兄弟の恋人に惹かれる若き作家を中心に、一筋縄ではいかない恋に揺れ動く人間模様を描き、オーソドックスながら繊細な演出が光る。
La Daronneは、奇想天外なストーリーながらドラマとコメディがバランスよく融合した娯楽作。アラビア語の通訳として司法関係で働くパシャンスは、ある電話の盗聴により、ドラッグの密輸に、入院している母の介護人として懇意にしている看護婦の息子が関わっていることを知る。友情のために、パシャンスはある大きな賭けを思いつくのだった。
金ぴかアラブ・ファッションで謎のゴッドマザーになりすますユペールの、ドラマとコメディの境界を自由に行き来する芸域の広さに驚かされる。エイジレスにどんな役もこなしてしまう彼女の快進撃は、当分続きそうだ。
イザベル・ユペール主演La Daronne
◇初出=『ふらんす』2020年11月号