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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

パルムドール受賞作とゴンドリーの新作


映画Anatomie d’une chuteのポスター

 今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた、ジュスティーヌ・トリエ監督のAnatomie d’une chute(転落のアナトミー)が公開になった。本作は日本でも公開された彼女の前作『愛欲のセラピー』から4年ぶりとなるが、監督として着実に成長していることがうかがえる。オリジナル・ストーリーによる法廷サスペンスで、脚本にはトリエとともに、彼女のパートナーであるアルチュール・アラリ監督(『オノダ』)が参加している。

 売れっ子作家のサンドラ(サンドラ・フラー)は、パートナーのサミュエル(サミュエル・テイス)と、11歳の息子、ダニエルとともに、人里離れた高原のシャレーに住んでいる。だがある日、サミュエルがバルコニーから転落死しているのが見つかる。自殺か事故死か、あるいは他殺なのか。警察はサンドラを疑い、やがて彼女が被疑者として裁判が始まる。ここから物語は、主に息子の視点を通して語られる。

 トリエは本作について、カップルの挫折、恋愛物語の終焉を描きたかったと明かしているが、法廷で問い詰められるサンドラの答弁から、ふたりの愛の歯車がかみ合わなくなっていった様子が徐々に明らかになり、それを傍聴席でダニエルが聞いているという図式が痛々しい。母親は真相を語っているのか、父親は本当に彼女の形容する通りの人だったのか。真相の行方と家族の心理的な関係がきりきりするテンションのなかで語られ、ラストまで緊張を緩めず、高い評価を受けている。

 最近テレビシリーズの演出が続いていたミシェル・ゴンドリーの、久々の長編映画として話題なのが、Le Livre des solutions(解決の書)。この監督らしいテイストの詰まった楽しいコメディだ。スランプを迎えた映画監督が馴染みのスタッフを連れて田舎に引きこもり、インディペンデントな超低予算映画を作るという物語で、監督自身が投影された主人公を、以前からゴンドリーの大ファンだったというピエール・ニネが軽妙に演じる。

 アイディアが湧きすぎて収拾がつかなくなってしまったり、なんでもブリコラージュ感覚で、ユニークな装飾を作りあげてしまうところが微笑ましい。脇役で『ママと娼婦』のフランソワーズ・ルブランが出演。さらにサプライズでスティングが彼自身として登場するシーンも笑わせてくれる。

◇初出=『ふらんす』2023年10月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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