ひと皮向けた、ロマン・デュリスの代表作
俳優のロマン・デュリスが、新作Nos Batailles(邦題『パパは奮闘中!』)で新境地を開拓したと絶賛されている。デュリスといえば、セドリック・クラピッシュに見出され、二十歳のときに『青春シンドローム』でデビューして以来、クラピッシュ監督と何度も組む一方で、ヤン・クーネン(『ドーベルマン』)、トニー・ガトリフ(『ガッジョ・ディーロ』『愛より強い旅』)ジャック・オディアール(『真夜中のピアニスト』)、ミシェル・ゴンドリー(『ムード・インディゴ うたかたの日々』)、フランソワ・オゾン(『彼は秘密の女ともだち』)など、今日のフランス映画界を彩る監督たちと仕事をしてきた。だが最近はいまひとつ伸び悩みなのか、あるいは作品自体が精彩を欠いているせいか、これといった当たり役がなかった印象がある。そんななか、若手監督ギョーム・セネズによる『パパは奮闘中!』では、実直な労働者で仕事と子育てに奮闘する父親という、これまでの彼のイメージから離れた新しい役どころで、ひと皮向けた魅力を放っている。
オンライン販売の倉庫で働くオリヴィエは残業が多く、家族と過ごす時間を十分に持てずにいた。そんなある日、妻が理由も告げずに姿を消し、残されたオリヴィエはふたりの子どもを抱え、途方にくれる。ベビーシッターを雇う余裕もなく、毎日が戦場のような混沌のなかで日課をこなしていくのが精一杯のオリヴィエ。だがそんな心境は、母親を慕う幼い子どもたちにとって察する由もなかった。
ストーリーとしてはアメリカ映画の名作『クレイマー、クレイマー』を彷彿するが、フランス版のこちらはさらに、賃金の低い労働者の生活苦という、いままさにフランスで話題になっている社会問題が被さり、より現代的な趣きを増している。いわば『クレイマー、クレイマー』+ケン・ローチといったところか。
とりわけデュリスの率直で人間味あふれる演技、そして子どもたちとの自然な触れ合いが胸を突く。不器用で不完全ながら、つねにその瞬間を誠実に生きようとする主人公の姿は、観客にとっても親近感の湧く身近な存在と言えるだろう。デュリスの代表作という声もあり、これからの賞レースでも名前が挙がりそうだ。
◇初出=『ふらんす』2019年3月号