忘れえぬ名バイプレイヤーたち
La Cacheのポ スター
17歳のデビュー作、『ロゼッタ』(1999)でカンヌ国際映画祭の最優秀女優賞を受賞したベルギーの俳優、エミリー・ドゥケンヌが癌で亡くなった。まだ43歳だった。パルムドールをダブル受賞したダルデンヌ兄弟監督による本作は、アルコール依存症の母とトレーラーで暮らすロゼッタが、なんとか社会の底辺から這い上がろうとするものの、社会の厚い壁に阻まれる過程を描く。衝撃的な終わり方で世界的に大きな評価を受けた。
もっとも、その後はあまり作品に恵まれず脇役が多くなったが、たとえ小さな役柄でも深みを感じさせる魅力は変わらなかった。最近ではセザール賞助演女優賞に輝いたエマニュエル・ムレ監督によるLes Choses qu’on dit , les choses qu’on fait(言うことと、やること)での、人生に達観した女性や、ルーカス・ドン監督の『CLOSE /クロース』(2022)で、息子を失った母親の痛さを鮮烈に演じたのが記憶に新しい。ダルデンヌ兄弟は「彼女とは、いつかまた一緒に映画を作ろうと話していたが、わたしたちにとって彼女はロゼッタゆえに、なかなか(役を考えるのが)難しかった。不運にも無慈悲な病にその機会を奪われてしまった」と追悼の言葉を寄せた。その夭折を惜しむ声が業界で後を絶たない。
才能に溢れた名バイプレイヤーといえば、昨年10月に亡くなったミシェル・ブランも忘れられない。その彼のほぼ最後の作品にあたる新作La Cache(隠れ家)がフランスで公開された。現代美術のアーティスト、クリスチャン・ボルタンスキーの甥、クリストフ・ボルタンスキーの原作を元にした本作は、彼が子供の頃に経験した、1968年5月にパリで起こった政治的ムーブメント(通称五月革命)下の家族の思い出を描いたもの。政治運動が何かもわからない9歳のクリストフが、パリにいる祖父母のアパルトマンに身を寄せ、家族がまるでコロナ下のように家の中に閉じこもって過ごした不思議な体験を、彼の視点から綴る。ブランは祖父役に扮し、優しく孫を見守る人間味あふれた魅力を差し出し、映画を牽引している。
ブランといえば日本ではパトリス・ルコントの『仕立て屋の恋』(1989)が有名だが、本国ではむしろ『レ・ブロンゼ/日焼けした連中』(1978。フランスで大ヒットし、シリーズ化された)、カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞した『タキシード』(1986)などコメディで知られた。
才能あふれる俳優たちが、ひとりまたひとりと消えていくもの悲しさは、いつの時代も変わらない。