女性監督の活躍、ふたたび
ヴァレリア・ブルーニ・テデスキは近年、女優としてのみならず監督としても着実に力をつけている。監督7本目に当たるLes Amandiers(「アマンディエの生徒たち」)は、今年のカンヌ国際映画祭のコンペティションで披露された。故パトリス・シェローを中心に、80年代、パリのナンテールに設立された俳優学校を舞台にした、彼女自身の青春期をもとにした物語だ。監督・演出家のシェローといえば、フランスでは演劇界の神のように崇められ、その後映画監督としても『王妃マルゴ』(1994)などで成功を収めた鬼才。そんな彼のもとで演技を学んだブルーニ・テデスキは、過渡期にある学生たちが恋愛や悲劇を通して大きく成長していく横顔を、溢れんばかりの情熱で描いている。
Les Amandiersのポスター
シェローとその盟友ピエール・ロマンが新設した俳優養成学校、アマンディエに志願したステラ(ナディア・テレスキウィッツ)は、そこで同年齢の仲間たちと知り合う。芝居に「真実」を求めるシェローの元、稽古は厳しく、人間関係も濃密になり、やがて彼らの生活そのものを巻き込んでいく。シェローの、ときにサディスティックな要求と、感受性の強い時期にその洗礼を受ける生徒たちの激情に驚き、心が揺れ動く。新鋭テレスキウィッツの豊かな魅力とともに、シェロー役を監督の元パートナー、ルイ・ガレルがカリスマ性をもって演じているのも魅力だ。青春の熱さ、痛さが凝縮されている。
もう1本、カンヌのある視点部門で審査員特別賞を受賞した『ロデオ』も公開になった。ローラ・キヴォロン監督の長編一作目で、フランス映画祭2022横浜でも披露された。物心がつく頃からずっとバイクに乗ることを夢見ていたジュリアは、社会の底辺で、他人のバイクを盗んでは転売することでなんとか生計を立てている。そんなある日、アクロバティックな技を見せ合う若いバイカーたちのグループに遭遇し、仲間の一人と親密になるが、ある事故が彼らに大きな衝撃をもたらす。
監督がネット上で見つけ配役したという、ヒロイン同様にバイクに情熱を燃やすジュリー・ルドルの強烈な存在感に言葉を失う。決して共感しやすいわけでもないこのキャラクターを動物的な感覚で体現し、まさに「真実」を現出させる。彼女が現実のしがらみを振りほどくようにバイクを疾走させる姿は、せつなくも清々しい。またひとり、パワフルな映画を作る才能が現れた。
◇初出=『ふらんす』2023年1月号