大女優イザベル・ユペールの八面六臂の活躍
映画La Syndicalisteポスター
イザベル・ユペールの八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍が止まらない。『ゴッドマザー』のジャン゠ポール・サロメ監督と再び組んだLa Syndicaliste(「組合活動家」)、フランソワ・オゾンのMon Crime(「我が罪」)と、2本も新作が公開された。
フランス版『エリン・ブロコヴィッチ』とも言えるLa Syndicalisteは、実話をもとにしている。ユペールが演じるのは、フランスの国有会社で、世界最大級の総合原子力企業AREVA(現ORANO)を相手に戦った活動家、モリーン・ケルネイだ。2012年に、企業の秘密譲渡に関する取引を知った彼女は、事実を公にしようと乗り出すが、何者かに自宅で襲われ、命に別状はないものの体を傷つけられる。だが警察は証拠不十分とし、逆に虚偽罪で彼女は訴えられ、一審で有罪判決を下されてしまう。
「硬派な政治映画を作りたかった」というサロメ監督は、ケルネイ本人に出会い、家族のプライベートな部分には脚色を加える許可を得て、政治的なサスペンスにケルネイの人と成りを絡めていく。昨今のフェミニズムの潮流と相まって、とても見応えのある作品だ。ケルネイが襲われる場面は、同じくユペールが主演した『ELLE エル』を彷彿とさせるが、もちろん事実に沿っている。戦う女性の強さを纏う一方、彼女の2倍はあるような夫(グレゴリー・ガドボワ)と並ぶとその脆さが表現されるあたり、監督の緻密な演出にも唸らされた。
Mon Crimeでは、ユペールはむしろ脇役(無声映画時代のスター)としてスパイスをもたらしている。1930年代のパリを舞台にしたコメディだが、オゾンは当時の戯曲を現代風に、#MeTooへの目配せもたっぷりに映画化。いま注目を浴びている若手、ナディア・テレスキヴィッツとレベッカ・マルデールを主演に、プロデューサーを殺した容疑で裁判にかけられる売れない女優と、正当防衛として彼女を弁護する親友の弁護士による事件の顛末を描く。優雅に暴走するユペールをはじめファブリス・ルキーニ、アンドレ・デュソリエ、ダニー・ブーンなどのスターが並び、ハリウッドのスクリューボール・コメディにオマージュを捧げた、ウィット溢れる作品。いささか形式的すぎる感があるのと、コメディというほどには劇場で笑いが起きていなかった印象があるものの、豪華な面子で楽しませてくれる。
◇初出=『ふらんす』2023年5月号