景気回復が待たれる2023年の映画界
2022年の後半は、ジャン=リュック・ゴダール、ジャン=マリー・ストローブ、そしてフランスの批評家にも高く評価されている吉田喜重監督が亡くなるなど、シネフィルにとって辛い年になった。映画界全体においては、コロナ禍の規制がなくなった後も映画館に思うように客足が戻らないという、苦境のシーズンとなった。以前なら大ヒットになりそうなダニー・ブーンの新作Une Belle course(「美しい道のり」)は、動員が50万人には至らず、業界関係者をがっかりさせた。
そんななかで健闘した作品といえば、政治家シモーヌ・ヴェイユをエルザ・ジルベルスタインが演じたオリヴィエ・ダアンのSimone, le voyage du siècle(「シモーヌ、世紀の旅」)と、ジャン・デュジャルダン主演で2015年11月13日のパリ同時多発テロを映画化したセドリック・ジムネのNovembre(「11月」)だ。ともに動員200万人を超える数字となった。
また動員40から60万人レベルながら健闘した作品には、無実の罪でロシア政府に身柄を拘束されたフランス人の実話をもとにしたジェローム・サルのKompromat (「コンプロマット」)、パトリス・ルコントのMaigret(「メグレ」)、こちらもパリ同時多発テロを扱ったアリス・ウィンクールのRevoir Paris(「パリとの再会」)、ドミニク・モルのサスペンスLa Nuit du 12(「12日の夜」)などがある。
2023年は映画界にもう少し明るい話題が響いて欲しいところだが、インフレと電力不足が深刻化するフランスでは、状況が好転するには時間が掛かりそうだ。
新春の期待作には、戦時下でオマール・シーが息子をかばう父親に扮するマチュー・ヴァドピエのTirailleurs(「狙撃兵」)、『マーティン・エデン』のピエトロ・マルチェロがルイ・ガレルを起用しフランスを舞台にしたL’envol (「飛翔」)、ルシール・ハジハリロヴィックの7年ぶりの新作Earwig(「立ち聞き」)など。大作としては、ギョーム・カネがアステリクス役と監督を兼任するAstérix et Obélix : L’empire du milieu(「アステリクスとオベリクス:中間領土」)と、二部作になることが決まっている、マルタン・ブルブロンのLes Trois mousquetaires : D’Artagnan(「三銃士:ダルタニアン」。ダルタニアン役はフランソワ・シヴィル)がある。こうした話題作が業界に活気をもたらしてくれることを祈りたい。
ブルブロン監督Les Trois mousquetaires : D’Artagnan
◇初出=『ふらんす』2023年2月号