現在進行形の社会を映すフランス映画の問題作
今月は、フランスで議論を巻き起こした2作品をご紹介したい。1本はフランス生まれ、セネガル人女性監督マイムナ・ドゥクレの初長編で、日本でもNetflixで配信され話題になった『キューティーズ!』(原題Mignonnes)だ。
パリに住むセネガル人家庭の11歳の少女アミが、ダンスグループを結成する同級生と出会ったことで、その日常が大きく変わる。アミはムスリムの伝統に従い封建的な教えをほどこす家族の目を盗み、友人たちとネットに流れる扇情的な西洋の歌手たちを真似て過激なダンスを考え、コンテストを目指す。
監督は本作を、「子供たちが現代社会のなかでいかに危険にさらされているかの警告である」と語っているものの、派手な衣装に真っ赤な口紅で踊る彼女たちのダンスがセクシーすぎるゆえに、そこまでやらせた監督の姿勢を批判する声が上がった。映画のボイコットを訴える運動が持ち上がるなか、フランスの監督協会はそれに対して、「表現の自由」を掲げ、本作を擁護した。
現在14歳のアミ役に扮したファティア・ユスフは、あどけない容姿のまま映画のなかでどんどん挑発的に変化していくので、それを観るのは確かに心をかき乱される。その居心地の悪さを感じさせることこそが、監督の狙いだったのだろう。少女たちが生き生きとパワフルなだけに、よけい心に大きなしこりを残す作品だ。
もう一本は、「黄色ベスト」運動をきっかけに大きな問題になった、警察の市民に対する暴力を取り上げたドキュメンタリー、Un pays qui se tient sage(「分別を保つ国」)。ジャーナリストでもあるダヴィッド・デュフレヌ監督は、警察対デモ参加者の衝突の現場を捉えた映像(なかには市民たちによって携帯で撮られたものも)を集め、それを観ながら歴史家、社会学者、弁護士、デモ参加者から警察官まで、さまざまな立場の人間が対話をするというユニークな形式をとった。過剰な暴力の決定的な瞬間を目にしながら、「治安維持」や「正当防衛」という言葉で弁護しようとする警察側の責任者の姿勢が苦しい。一方、映像のなかには明らかに行き過ぎの行動をとる黄色ベストの人々や、デモとは関係のない「壊し屋」と呼ばれる人々が、商店のショーウィンドウを破壊する場面もあり、もはやデモ参加者の意志とは関係ないところで事態が深刻になっているのが窺える。今年6月に内務大臣のクリストフ・カスタネールが警察の暴力を鎮火する目的で、尋問方法に制限を加えることを発表したときも、警察官は猛反対をした。つい最近では、治安が悪化している郊外の街で、地元のディーラーたちが警察署を襲撃するというショッキングな事件があり、再び警察の権限が強化される方向にある。
本ドキュメンタリーはこうした事件の渦中で、暴力が暴力を生む果てしない連鎖を表している。
◇初出=『ふらんす』2020年12月号