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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

「多様性」を象徴するスターたち

 今年3月に開催されたセザール賞授賞式は、フランス映画の新しい波を感じさせるものだった。若い才能の出現、というだけではない。以前から存在していたフランス映画の多様性が、目に見える形で評価され始めたことが確認できた。

 たとえば最優秀主演男優賞に輝いたサミ・ブアジラの出演作Un fils(「息子」)は、チュニジアを舞台にした四カ国合作の低予算映画。以前なら「外国映画」として見過ごされていたかもしれない。またブアジラは30年のキャリアを持つベテランで、主演男優賞にノミネートされたのは2度目だが、今回が初の受賞となった。

 有望新人男優賞のジャン=パスカル・ザディの主演、共同監督作Tout simplement noir(日本ではNetflixで『俺はマンデラになる』という邦題で配信中)と、有望新人女優賞のファティア・ユスフ主演作Mignonnes(こちらもNetflixで邦題は『キューティーズ』)も、共に“カラード”の立場からフランス社会を見つめる。とくに前者は、「ボラット」フランス版とも言えそうな、お騒がせキャラクター。売れない40歳の黒人俳優が、なんとかスポットライトを浴びるため、差別を訴えようとさまざまな業界人たちに声を掛ける。映画のポスターはなんとも緩い印象だが、折しもアメリカで起こった「ブラック・ライブズ・マター」ムーブメントとシンクロするような内容や、フランス国内の警官による暴力事件などをネタにしたきわどいジョークとブラックユーモアが効いている。マチュー・カソヴィッツ、オマール・シー、ラッパーのジョーイ・スターなどが彼ら自身として登場するキャスティングも話題。セザール賞受賞によって、ザディは今後フランス映画界を“撹乱する”存在となるかもしれない。


『俺はマンデラになる』Tout simplement noirのフランス版ポスター
© 2020GAUMONT-C8 FILMS

 一方、フランス映画界から世界に羽ばたき耳目を集めているのがタハール・ラヒムである。すでにフランスでは人気者だったが、『ニューヨーク 親切なロシア料理店』に続き、最新作のハリウッド映画『ザ・モーリタニアン(原題The Mauritanian)』で、堂々ジョディ・フォスターと渡り合い、ゴールデン・グローブ賞主演男優賞(ドラマ部門)にノミネートされる快挙を遂げた。オマール・シーに続いて、彼もまたフランスの多様性を象徴する存在と言えるだろう。

◇初出=『ふらんす』2021年5月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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