2022年の幕開けを飾るフランス映画の話題作
2021年もコロナ禍の影響で、映画業界にとっては試練続きだった。夏以降、新たな変異株の登場により、映画館入館のための衛生パスが導入されたことで、一時は動員が70パーセントも落ち込んだほど。だがそれでも、波が収まればまた映画館に客足が戻ってくるのがフランスだ。「ストリーミングで観るのに疲れた」「映画はやはり大画面で観たい」という人々の声を、昨年は何度聞いたことだろう。2022年には事態がもう少し上向きになることを祈りたい。
昨年からの公開ラッシュは依然続いている。1月は話題の小説を映画化した2作品が注目を集めている。
1本目は、フランスで2016年に発売されるやベストセラーとなったオリヴィエ・ブルドー原作による、『ボージャングルを待ちながら』。友人たちとのパーティに明け暮れ、浮世離れした生活を送る夫婦とその一人息子の物語だ。エキセントリックな母親は自身の空想の世界を生き、父親はそんな妻への愛を貫くものの、さまざまな取り立ての手紙は山積みになり、やがて悲劇が訪れる。監督はブルドー自身が抜擢した、『タイピスト!』のレジス・ロワンサル。母親役はいま出演作が目白押しのヴィルジニー・エフィラが射止め、父親にロマン・デュリスが扮している。
ロワンサル監督作『ボージャングルを待ちながら』
ロワンサル監督は画家ダリとその妻ガラからインスピレーションを得たようだが、なるほど、そう言われるとしっくりくる。エフィラが太陽のような明るいオーラを振りまき、コメディからドラマまで自在に行き来するデュリスがそれを受けとめる。前半の寓話的な部分がやや冗長な印象もあるが、後半に物語が現実味を帯びて来るところで引き締まる。華やかな夢の後のような哀しさを感じさせる作品だ。
2本目は、著名なジャ-ナリスト、フロランス・オブナの小説を、自身も小説家で監督経験のあるエマニュエル・カレールがジュリエット・ビノシュ主演で映画化した、『ウイストルアム-二つの世界の狭間で-』。小説を書くために素性を隠し、掃除婦として働き始める主人公が、生活苦に喘ぐ同僚と心を通わせるものの、身分を明かせられずに悩む。すっぴんで労働者に扮するビノシュも説得力があるが、周りを囲む素人の出演者たちが素晴らしく、よくぞここまで自然なアンサンブルを引き出せたものだと感心させられる。
◇初出=『ふらんす』2022年2月号