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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

娘C・ゲンズブールが映し取った母J・バーキンの素顔

 ジャン=ジャック・ベネックスが、1月13日に75歳で亡くなった。2001年に日本で公開された『青い夢の女』以来、映画を撮っていなかっただけに、今の若い世代はもはや知らない方もいるだろうか。だがベネックスといえば、初長編の『ディーバ』(1981)が日本でも注目を集め、『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(1986)は世界的なヒットを記録。ちょうど同時期に頭角を現したレオス・カラックスやリュック・ベッソンと並んで当時は、「ヌーヴェル・ヌーヴェル・ヴァーグ」、「フランス新世代の御三家」などと称された。その後日本好きが嵩じて撮ったドキュメンタリーOtaku : fils de l’empire virtuel(「おたく」、1993)や、イヴ・モンタンの遺作となった『IP5/愛を探す旅人たち』(1992)などがあるが、全盛期の才気は失われていった。「情熱は(社会の)システムに対するアーティストの復讐」「自由を最後まで擁護するのがアーティスト」といった姿勢を貫くなかで、2000年以降の時代の変化に乗れず、新作を撮ることができなかったのは残念だ。日本にミニシアター・ブームを起こした立役者のひとりとして、追悼の意を表したい。

 2022年の頭には、奇しくもベネックスと同年齢のジェーン・バーキンのドキュメンタリー Jane par Charlotte(「シャルロットによるジェーン」)が公開になった。メガホンを握ったのは娘のシャルロット・ゲンズブールだ。シャルロットは自身でもときおりカメラを回しながら、「母をこれまでにないほどじっくり見つめる口実としてカメラを手にした」と語る。映画の始めのほうでふたりが向き合い、「ふたりだけだと、お互いすごく控え目になる」「あなたはとても秘密が多い」と会話を交わすシーンがあり、従来の“親密な親子”のイメージと異なることにはっとさせられる。実際本作は、そんな母と娘が少しずつ、これまで以上に近づくプロセスの記録になっている。さらに近年亡くなったシャルロットの姉、ケイト・バリーの子供時代の映像を目にしてジェーンが、「もう観ていられない」と言い出すシーンなど、胸を突く場面も。誠実でせつない思いに満ちた、娘から母に宛てた秀逸なドキュメンタリーであり、さまざまなことを潜り抜けてきた特別な母娘の絆に心を打たれる。


ドキュメンタリー Jane par Charlotte

◇初出=『ふらんす』2022年3月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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