白水社のwebマガジン

MENU

「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

「衛生パス」導入に揺れるフランス映画界

 5月からようやく映画館が再開し、興行主たちが胸を撫で下ろしたのも束の間、7月21日から映画館の入場に「衛生パス」が必要になったことで、映画業界が再び苦境に陥った。フランス映画国立連盟の発表によれば、衛生パスの導入以来、約6割まで動員が落ち込んだという。

 危機感を覚えた国立連盟が政府に対し基準を甘くするように訴え、一旦は保健大臣により、50人未満のシアターは衛生パスを免除するという発表があったものの、変異株の流行で第三波の兆しが見えたことで、政府は再び方向転換。すべてのシアターで、成人に衛生パスが必要となった。さらに9月30日からはワクチン適用の拡大と相まって、12歳以上の未成年も衛生パスが必要となる。この原稿を書いている現在、フランスでは81パーセントがワクチン接種済みとされているが、それでも反対派は根強くいるだけに、映画興行主の心配は絶えない。

 そんななか、健闘しているフランス映画が3本ある。1本目は往年の人気テレビシリーズを映画化した、時代物のファンタジック・コメディ、Kaamelott - Premier Volet。「おかしなおかしな訪問者」の路線と言えばわかりやすいだろうか。シリーズの作者でもあるアレクサンドル・アスティエが監督・主演を務める。公開初日がまさに衛生パス導入と重なる悲運に見舞われながら、1週目で100万人を超える動員を記録した。

 2本目は、ジャン・デュジャルダン主演のジェームズ・ボンド・パロディ版OSS 117 : Alerte rouge en Afrique noire。シリーズ3作目の今回はニコラ・ブドスが監督を務め、とうのたったOSS 117が若手エージェントとタッグを組む。相棒役にはピエール・ニネが扮し、コミカルな新境地を開拓しているのも見どころ。

 さらに3本目は、今年のカンヌ国際映画祭で披露されたセドリック・ジムネのBac Nord。実際にドラッグ絡みの事件が絶えないマルセイユのもっとも危険な地域を舞台に、警察の捜査班と地元の麻薬カルテルのいたちごっこを描く。アクション、ヴァイオレンス、スリルと人間ドラマが一体となり、「フレンチ・コネクション」のように鮮烈な作品だ。ジル・ルルーシュ、アデル・エグザルコプロス、肉体派にイメチェンしたフランソワ・シヴィルら、キャスト陣も魅せる。


セドリック・ジムネ監督Bac Nord

◇初出=『ふらんす』2021年11月号

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2024年5月号

ふらんす 2024年5月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

ランキング

閉じる