どうなる、今後のセザール賞?
昨年亡くなったアンナ・カリーナにオマージュを捧げた、今年のセザール賞のポスター
今年で45回目を迎えるフランス映画界の祭典、セザール賞が、1月のノミネーションの発表を機に、波乱に見舞われた。最多12部門のノミネートを受けたのが、ロマン・ポランスキーのJ’accuseだったことで、#MeToo問題が再熱している彼を糾弾するフェミニスト団体が、本作への投票のボイコットを呼びかけるなど、再び論争を巻き起こしたのだ。
さらに、本授賞式に先駆けて行われた若手有望俳優たちを祝うパーティで、クレール・ドゥニ監督と、作家で監督のヴィルジニ・デパントの招待が除外されていたことが明るみに出て、これも問題に。それを機に、業界内で溜まっていたセザール協会(アカデミー・デザール・エ・テクニック・ドゥ・シネマ)に対する不満が一気に噴出。2月10日のル・モンド紙に、セリーヌ・シアマ、ミシェル・アザナビシウス、セドリック・クラピッシュ、マチュー・アマルリックら、複数の監督、俳優たちの連名による抗議文が掲載された。その趣旨は、17年間君臨してきたプレジデント、アラン・テルジアンによる不透明な運営、公平さを欠いた選出や、商業的な作品寄りの姿勢を糾弾したもの。
この抗議文の反響により、ついに2月13日、現委員会のメンバーが揃って辞任する事態に至った。2月28日の授賞式はなんとか予定通りに行われたものの(*結果はウェブページを参照)、その後、組織が一新されるという。
たしかにセザールは以前から、作家性の強いものより商業的にヒットした作品を評価する傾向にあった。またアカデミー会員の高齢化により、時代の変化を反映していないといった批判も聞こえていただけに、この結果は大きな変革をもたらす第一歩と言えそうだ。
ちなみに今回、J’accuseに続き評価が高いのは、11部門ノミネートのラジ・リ監督『レ・ミゼラブル』とニコラ・ベドス監督La Belle Époque。10部門ノミネートのセリーヌ・シアマ監督Portrait de la jeune fille en feu。7部門ノミネートのフランソワ・オゾン監督Grâce à Dieuとオリヴィエ・ナカシュ&エリック・トレダノ監督のHors normes。とくにラジ・リは初長編にして動員200万人を記録しただけに、新世代を象徴する存在と言える。
◇初出=『ふらんす』2020年4月号
[ウェブ追記]
セザール2020受賞リスト
最優秀作品賞:『レ・ミゼラブル』ラジ・リ
最優秀監督賞:ロマン・ポランスキー J’accuse(「わたしは弾劾する」)
最優秀女優賞:アナイス・ドゥムスティエ Alice et le maire(「アリスと市長」)
最優秀男優賞:ロシュディ・ゼム Roubaix, une lumière(「ルーベ、ひとすじの光」)
最優秀助演女優賞:ファニー・アルダン La Belle Époque(「ベル・エポック」)
最優秀助演男優賞:スワン・アルロー Grâce à Dieu(「神の恩寵のもとに」)
最優秀有望新人女優賞:リナ・クドリ Papicha(「パピチャ」)
最優秀有望新人男優賞:アレクシス・マネンティ『レ・ミゼラブル』
最優秀オリジナル脚本賞:ニコラ・べドス La Belle Époque(「ベル・エポック」)
最優秀脚色賞:ロマン・ポランスキー、ロバート・ハリスJ’accuse(「わたしは弾劾する」)
最優秀アニメーション作品賞:J’ai perdu mon corps(「ぼくは身体を失った」)ジェレミー・クラパン
最優秀初監督作品賞:Papicha(「パピチャ」)ムニア・メドゥール
最優秀ドキュメンタリー賞:M ヨーランド・ゾーベルマン
最優秀外国映画賞:『パラサイト』ポン・ジュノ
セザール観客賞:『レ・ミゼラブル』