オリンピックに勝るとも劣らぬ(?)話題作
Le Compte de Monte-Cristoのポスター
今年の夏はもっぱらオリンピックに話題が集中した感があるものの、映画でも大健闘している作品はある。公開16週を迎え、なんと1000万人動員の大ヒットを達成したのが、Un p’tit truc en plus(ちょっとしたコツをもうちょっと)。ひょんな誤解が元でダメ父と息子が、障害を抱えた青少年たちの林間学校に同行することになり、人生を変えるきっかけを摑む。筋立てはかなりご都合主義的で、映像も取り立てて印象的とは言えないが、いわば『最強のふたり』路線のフィール・グッドなところが受けているようだ。監督、主演を務めたのはテレビ番組などで知られるコメディアン、アルテュスだが、彼自身の人気というよりは、口コミを発端に社会現象化した所以と言えるかもしれない。
かたや公開8週で動員687万人を突破した話題作は、ピエール・ニネ主演のLe Compte de Monte-Cristo(モンテ・クリスト伯)。日本では「巌窟王」の名で知られるアレクサンドル・デュマの古典小説を、Le Prénom(名前)(2011年)のマチュー・ドゥラポルトとアレクサンドル・ドゥ・ラ・パトリエールのコンビが映画化。これまで何度も映画化されてきた題材を、ドローンを使った撮影やきらびやかなセットによる映像的な醍醐味と、若手実力派キャスト(ニネの他、アナイス・ドゥムースティエ、アナマリア・バルトロメイ、バスティヤン・ブイヨンら)がもたらすエネルギッシュな魅力で、生き生きとしたエンターテインメントに蘇らせた。今年35歳を迎えたニネは本作で、押しも押されもせぬフランス映画界を代表するスターとなった。
さらにもう一作、批評家から高い評価を受けているのが、今年のカンヌ国際映画祭、批評家週間のオープニングを飾ったジョナタン・ミエ監督のLes Fantômes(ファントム)だ。監督が実話からインスパイアされた物語で、主人公はヨーロッパに逃亡したシリアの戦犯を追う組織の一員ハミッド(アダム・ベッサ)。物語が進むうちに、復讐に燃える彼の過去とトラウマが明らかになる。もっとも、ハミッドは追いかける相手の顔を過去に見たことがあるわけではない。彼が頼りにするのは記憶のなかの声と体臭。息詰まる緊張感に満ちたスリラーであると同時に、重い社会派映画でもある。アラブ系の俳優でいまもっとも注目される演技派のひとり、ベッサのカリスマ性にも惹きつけられる。