世界に進出するフランスの女性監督たち
今回は、最近増えつつあるフランスの女性監督たちの近況についてご紹介したい。フランスの映画界において現在女性監督が占める数は全体の約4分の1にのぼるという。この数字は世界的にも稀で、助成金制度が整っている国だからとはいえ、彼女たちの逞しさを感じずにはいられない。今年公開が待機している作品だけを考えても、昨年のカンヌ・レーベルに選ばれた『シンプルな情熱』のダニエル・アービッドとSeize Printemps(「16歳の春」)のスザンヌ・ランドン、セリーヌ・ディオンを題材にしたAline(「アリーヌ」)で監督・主演を務めたヴァレリー・ルメルシエ、Amants(「恋人たち」)のニコール・ガルシア、今年のベルリン国際映画祭「エンカウンターズ」部門で作品賞を受賞したドキュメンタリー、Nous(「わたしたち」)のアリス・ディオップがいる。
またコロナ禍で落ち込んでいる映画業界を尻目に、勢いのある配信系でメガホンを握る監督もいる。長編デビュー作のホラー、『RAW~少女のめざめ』で一世を風靡したジュリア・デュクルノーは、M・ナイト・シャマランが手がけるAppleTV+のシリーズ『サーヴァント』のシーズン2に参加した。
『裸足の季節』で長編デビューをしたデニズ・ガムゼ・エルギュヴェンは、すでに2作目の『マイ・サンシャイン』をハリウッドで制作したが、その後Huluのシリーズ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』のシーズン3で、2話監督を手掛けている。
さらに英語、フランス語のバイリンガルとして知られるジュリー・デルピーは、Canal+が初めてNetflixと共同で制作するアメリカのシリーズOn the Verge(「瀬戸際」)を制作中。それぞれに好機を捉えて世界に進出していくさまは、頼もしい限りだ。
因みに最近、映画史における100人の女性監督を取り上げた「100 Grands films de réalisatrices(「女性監督による100の傑作」)」(ヴェロニク・ル・ブリ著/Gründ社)という本が出版された。史上初めてフィクションを撮ったと言われるアリス・ギイに始まり、アニエス・ヴァルダ、クレール・ドゥニ、ジェーン・カンピオン、ソフィア・コッポラ、河瀬直美、クロエ・ジャオまで世界中の女性監督の代表作が紹介され、その変遷を俯瞰させて興味深い。
A・ヴァルダが表紙を飾る 100 Grands films de réalisatrices
◇初出=『ふらんす』2021年6月号